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【ポリアモリー】恋人に、別の恋人ができた
きのコ
公開日|2022.09.09
更新日|2022.09.09
一緒に暮らし始めてから数ヶ月後のある日のこと。 私はマサから「実は、僕にも他に恋人ができた」と打ち明けられた。
この頃、私達の家は、まるで部室のように友人たちの溜まり場になっていた。 ネット上でポリアモリーであることやセクシャルマイノリティであることをオープンにしていた私のところには、私の考え方や生き方に興味をもったり私と同じような価値観や境遇だったりする人がいつの間にか集まってくるようになっていて、オフ会を開いてわいわい交流することもしばしばだった。
友人たちを自宅に招いてホームパーティーを開くことも多く、家には私とマサ以外にも、頻繁に友人たちが出入りしていた。鍋を囲んだり、夜遅くまで飲んで語り合ったり、雑魚寝したり、分担して家事をしたりと、ちょっとした寮や合宿所での共同生活のような様子だった。
ポリアモリーの当事者だけではなく、さまざまなセクシャリティや年齢やバックグラウンドをもつ仲間たちが集まっていて、誰一人として血縁や法律によってつながった家族ではないのに、不思議なアットホームさと居心地の良さをもつ、ネットの海から生まれた温かい潮溜まりのような空間がそこにはあった。
マサがお付き合いを始めたのは、その頃よく我が家に遊びに来ていた友人のひとり、ロキちゃん。物静かだけれど、荒波の多い人生を乗り越えてきたことが感じられるような、強さも秘めた人だった。
マサからロキちゃんと付き合うことを打ち明けられた時、私がまず感じたのは、嫉妬よりも驚きだった。
何しろマサは、私と付き合い始めた当初は根っからのモノガミー(お付き合いは1対1でするもの、という考え方にもとづいたライフスタイル)だったのだから。なので、ネガティブな気持ちになるよりも私は、「マサは私や私の友人たちと知り合って、ここまで変わったんだなぁ。変われるってすごいことだ」と感激すらおぼえた。
もちろん、「恋人に別の恋人ができる」という初めての経験に対して、多少の戸惑いや不安こそ感じはしたものの、「マサにロキちゃんのことを好きになってほしくない」「マサを独り占めしたい」というような反射的な嫉妬心や独占欲はほとんど湧かなかった。私がロキちゃんに対して嫉妬しなかったのは、マサと長い間お付き合いするうちに、「マサは私のことを揺るぎなく愛している」と信じられるようになっていたからだと思う。
ちなみに、私にとってのロキちゃん、ロキちゃんにとっての私のような、「恋人の恋人」のことを、「メタモア」と呼ぶ。マサという共通の恋人をもつ私とロキちゃんとは、メタモア同士ということになる。
マサにも恋人ができたことで、私やマサの気持ちや生活がどう変化するのか、そしてロキちゃんと私の関係はどのようなものになるのか、予想もできなかったけれど、とにもかくにもそうやって私・マサ・ロキちゃんのお付き合いが始まった。
しかし、日々を過ごすうちに、私はロキちゃんとの関係が、少しずつぎくしゃくしていくのを感じ始めた。
そのぎくしゃくの根本には、ロキちゃんの私に対する「遠慮」があるように思えた。私に対する思いやりや気遣いというより、私がいることでどこかマサに対して甘えきれない、恋人らしくふるまえない、というもどかしさのようなもの。
一方の私は、今までとあまり変わらずにマサに甘えたり、時には小さなケンカをしたりもしていた。自分のマサへの接し方を大きく変えることは不自然に思えたし、ロキちゃんに対してある程度の「配慮」は必要だけれど過度な「遠慮」はしないでいたい、という気持ちがあったのだ。
もちろん、ロキちゃんがマサと付き合い始め、より長い時間を我が家で過ごすようになってからは、それまでの生活と何もかもが同じというわけにはいかなかった。特に、夜どのように寝るかは、些細なようで見過ごせない問題だった。
もともとはマサと私とは寝室で2人で寝ていたけれど、ロキちゃんがマサとお付き合いを始めてからは、ロキちゃんも含め3人で川の字で寝ることもあった。けれど、それもロキちゃんにとっては「きのコさんに申し訳ない」という私への遠慮や、「マサと2人きりで眠りたいのに」というストレスにつながってしまっていたようだ。 やがてマサは、昨夜はロキちゃん・今夜は私というように、交代でそれぞれと2人で眠るようになった。
私は私なりに、自分が我慢をし過ぎない範囲でロキちゃんとマサの関係を尊重したいと思っていたし、このようなやり方はロキちゃんと私にとって公平なものに思えたので、マサがロキちゃんと2人で眠っている時にも、あまり寂しさや嫉妬を感じることはなかった。
そんなふうにして、私たちはお互いの妥協点を探しながら一緒に過ごしていたけれど、それでも、ロキちゃんの遠慮や我慢を完全に拭い去ることは難しかったようだ。
日が経つにつれて、ロキちゃんが我が家で過ごす時間はだんだんと短く、訪れる頻度も低くなっていった。そして、それに伴って、ロキちゃんとマサの間の熱も徐々に冷めていき、数ヶ月後に、2人は恋人関係を解消した…ということをマサから聞いた。
「ロキちゃんともマサとも、3人で仲良くできたらよかったのにな…」という、なんともいえないやるせなさのような気持ちが私の心の底にわだかまっていた。
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