隠キャの私とクラスの人気者男子とのありえない恋愛の結末

「初恋は実らない」
世間はよくそんなことを言います。
わたし自身も初恋はただただ悲しいだけの思い出でした。


当時中学校一年生だったわたしは、今で言うクラスのカースト下位に当たる隠キャグループに属していました。
もちろん隠キャなので異性の友人なんているわけもなく、毎日同性の友人と漫画を描いたりしながら日々を過ごしていました。
異性に対してもそこまで興味はなく、あまり性格もよろしくなかったわたしは
「彼氏がいるやつは人生の半分くらい損してる」
くらいの根拠のない理論で、階段の踊り場でイチャイチャしているカップルを心の中で見下しているような子供でした。
(もちろん隠キャなので態度には一切出さず、心の中だけで見下していました)

しかし、そんなわたしも小学校の頃は家が近いという理由で仲の良かった男の子が何人かいました。
その中の一人のTくん(仮名)は、クラスいちばんのお調子者で、性格のよろしくないわたしは彼のノートにアホと書いたり適当な嘘をついて騙したり、毎日彼をいじって遊んでいました。
彼はお調子者なので毎回最高のリアクションをしてくれ、なんだったらここをいじれと促すくらいの勢いできます。
それに答えてわたしが意地悪をし、彼が盛大なリアクションをして、周囲の友人が笑うというような毎日でした。

それまでは男女というものをあまり意識をしていなかったのですが、中学校に入ったあたりから周囲で色恋の話題が出るようになり、その流れでわたしが属する隠キャグループの中では
「恋愛とかしてるやつはアホ」
という暗黙の空気が流れるようになり、自然と異性間でのやりとりをしづらい雰囲気になっていきました。


ある日、友達と二人で学校から帰っている時。
急にクラスの男の子がわたしたちの前に現れて、わたしたちの後ろに向かって、
「おい!いるよ!ほら!」
と声をかけました。
なんだと振り向いたらそこにはTくんがいて、
「やめろよ、シーッ」
と恥ずかしそうに慌てています。
しかし、話しかけられるわけでもなくそれ以上何も起きなかったのでそのときはそのまま無視して帰りました。

そのあたりから、今まで仲良くなかったカースト上位の女の子から
「Tくんがあなたのこと好きらしいよ」
と話しかけられるようになってきたんです。
それもかなり頻繁に。
カースト上位女子は隠キャの空気をフルシカトで輪に入ってきてその話を振ってくるので、やはり変な空気は漂います。
その女子が去った後、
「え、付き合ってるの?好きなの?」
と盛大に眉間に皺を寄せて詰め寄られるたびに、
「記憶にございません」
と政治家のように返していました。
(実際に何も起きてないですし)

しかし、人間というのは単純なもので、そのようなことが起きるとついつい意識してしまうんですね。
小学校の頃に仲が良かったこと、わたしがかっこいい子より面白い子が好きだったこと、そしてなにより彼がわたしのことを好きらしいということ。
以上を踏まえて、わたしはだんだんと彼を意識するようになっていきました。
しかし、友人にはそんな相談をしようものなら袋叩きにされてしまうので、ひた隠しにして幼なじみでカースト上位女子のKちゃんにだけみんなに内緒という条件で相談するようになりました。

Kちゃんはとても応援してくれて、Tくんの情報を聞きだしながら、
「やっぱりあなたのこと好きみたいよ!」
と気持ちをどんどん昂らせてくれます。
とにかく怪我をしたくないわたしは自分からは行動しないくせに、だんだん彼の気持ちが確信になってきたあたりで直接彼に気持ちを聞いてみたいと思うようになってきました。
というのも、この間半年くらいありましたが彼がわたしのことを好きだという情報は全て又聞き情報で、彼からのアクションは一切無かったんです。

1年生の冬に入った頃、いつものように相談しながらKちゃんと帰っていたら、目の前にTくんがパッと現れました。
私の気持ちはもう絶好調に彼のことが大好きだったので、彼を見た途端
「あ、告白されるわ」
とすぐ思い、自分もちゃんと気持ちを言おうと声をかけようとしました。
そしたらKちゃんが
「あ、じゃあ行ってくるね、ばいばい」
とわたしに声をかけ、彼の元に走っていきました。
そして二人はとくにわたしを見ることもなくどこかへ行ってしまい、告白しようとしていたわたしの気持ちだけふわふわと宙に浮いて、ついでにわたしも宙に浮いてどこかへ行ってしまいそうになりました。

次の日、学校でもうひとりの幼なじみの子に昨日の話をなんとなくしてみたら衝撃の答えが返ってきました。



「ああ、Kちゃんなんか先週からTくんと付き合い始めたらしいよ」


ええええええええええええーーーーーーー????!!!!????!!!!れ???ゆよんかはむへ?????


もちろん声には出してはいないのですが、普通に心臓は止まるかと思いました。

いや、相談してたじゃん!!!!!!!
あなたのこと好きって言ってるとか言ってたじゃん!!!!!!
5分くらい前!!!!!!!!!


さすがに無視は出来ず、しかし波風は立てたくない事なかれ主義のわたしは静かにKちゃんのもとへ行き、それとなーく昨日のことを聞いてみました。
するとKちゃんは

「なんかごめんねー」

とヘラッと笑って、全然別の昨日のテレビの話を始めました。
そのときわたしは思いました。
これがサイコパスか、と。

それからTくんとKちゃんは人気のない方の階段の踊り場で休み時間はなんだかゴソゴソと二人で過ごすようになり、わたしの属する隠キャグループはそれを見ながらキモイキモイと陰口を叩き、わたしは彼氏いる奴みんな不幸、そんなもんな時間割くなら勉強したほうがよっぽど有意義だと思うようになっていくのでした。

それから20年ほど経ち、同窓会の案内がきました。
わたしはあれからずっとどこかで
「男の人は結局自分にアピールしてくる明るい女子が好きだから、わたしのような隠キャは恋愛などせず騒がず大人しくしておいたほうがいいんだ」
と感じており、自分から好きになることは一切ありませんでした。
でも、この引っ掛かりをなんとか無くすために同窓会でTくんにちゃんとあのときのことを聞こうと地元に戻りました。
久々に会ったTくんは全身黒の皮素材で固めており、漫画の闇金の取り立てのようなファッションでベロベロに酔っ払いながら椅子から落ち、そのタイミングでブレスレットが手首に食い込み出血していました。
ちょっと引きましたが、とりあえずあのときのことを聞いてみました。
すると彼はこう言いました。

「は?!俺そいつと付き合った記憶ないんだけど!」

!!!!!!???????!!!!????

どうやらあのときのわたしは、奇妙な世界に迷い込んでしまっていたようです。
しかし、もしあのときKちゃんが否定していたらたぶんわたしはTくんに告白して、下手したらその流れで結婚していたかもしれません。
(田舎なので結婚が早く、学生時代に付き合っていた人との結婚率が高かったんです)
手首から血を流しながら唾を吐き散らかし盛大に酔っ払うGACKTみたいな格好をしたTくんを見ながら、

Kちゃん、本当にありがとう。
わたしは今、しあわせだよ。


と思いました。
ちなみにKちゃんは離婚で揉めているため同窓会には来れなかったそうです。

「初恋は実らない」
かもしれませんが、わたしの初恋は実らなくて本当に良かったです。

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