【ポリアモリー】彼の依存と嫉妬

きのコ

きのコ

公開日|2022.08.08

更新日|2022.08.08

マサと付き合い始めたのは、5年ほど前。

私がポリアモリーであるということは、付き合い始める前にあらかじめ伝えていた。
とはいえ、ポリアモリーをカミングアウトするのは私も初めてだったし、彼も私と付き合うまではポリアモリーという言葉を知らなかったらしい。インターネットで検索しても当時は情報も少なく、Wikipediaに「ポリアモリー」の項目は一応あったものの、文章も難しいしよく意味が分からなかったみたいだ。

どうなるか分からないながらに始まったお付き合い。最初は私が関東在住、彼が九州在住という遠距離恋愛だったので、会えるのは頑張っても月に1度、数日間くらいだった。

彼は、当時勤めていた会社の新しい拠点の立ち上げメンバーとして転勤したばかりで、社内にも引越先の近くにも知り合いは皆無。しかも買い物や遊びに行くのも一苦労といった田舎で、車もなく家と会社だけを徒歩で往復するような生活を送っていた。
そして毎日、家にいて時間のある時にビデオ通話で私と話すこと以外、あまり他にすることもない日々だったらしい。

一方の私はといえば、「初めてポリアモリーであることをオープンにした恋人ができた!他の好きな人たちとも、デートしていいんだ!」とはしゃいで、親しい仲間たちと遊びに出かけたりデートしたりする毎日。いきなり新しい恋人ができるということこそなかったものの、好意をもって会う相手は2、3人いた。

いくら私が彼に、自分がポリアモリーで「他の人を好きになる可能性もある」ということを伝えてあるとはいえ、私と話す以外にすることがない彼にとっては、私が他の人と遊んだりデートしたりして通話ができない時間は耐えがたかったようだ。
最初は私が他の人とデートすることに何も言わなかった彼だけど、次第に、不機嫌さもあらわに「早く帰ってきて」「泊まりで遊びに行かないで」と言うようになった。

「明日はユウスケさんとお泊まりデートしてくるね」
「…明日は僕の帰りが早いから、通話したい。きのコさんも泊まらずに帰ってきて」
「ごめん、明日しかユウスケさんの都合があわないから…」
「なんでユウスケさんともデートするの? 僕のこと好きじゃないの?」
「マサくんのことは好きだよ。でも、ユウスケさんやケンのことも好きだし、彼らとも一緒に過ごしたいの」

といった調子で、次第に言い争いが増えていった。多い時には、毎週のようにケンカしていただろうか。

そんな、モノガミー(お付き合いは1対1でするもの、という考え方にもとづいたライフスタイル)の彼が変わっていくきっかけになったのは、私の「マサくんは、私に依存してる」という一言だった。

ある日、私は彼に、

「私は、マサくんと他の人のどちらの方が好き、というような優劣はつけられない。マサくんと話す時間ももちろん大事だけど、他の人と過ごす時間も、一人きりで過ごす時間も、大切にしたいと思ってる。私の時間をどんなことに使うかを決める時には、もちろんマサくんの気持ちを無視するつもりはないけど、まずは最初に自分で考えたい。私はマサくんのことを愛しているけど、『空いた時間を全てマサくんに使う』というようなかたちでマサくんに依存はしたくないし、マサくんからも依存されたくないと思ってるの」

というふうに自分の考えを説明した。

もちろん話しながら気持ちの高ぶりはあったけれど、わがままに自分の感情をぶつけるのではなく、それでいて自分の気持ちに正直に、でももしこの考え方をどうしても受け入れてもらえなければ、別れる結果になっても仕方ない…というような覚悟はしていた。

彼は、それまで「きのコさんは全然僕に時間をつかってくれない」と恨みがましく感じていたのが、私の「依存してる」の言葉でハッとして、「そうだ、きのコさんだけに依存してちゃいけない。自分も何か、他に夢中になれることを探してみよう」と思ったそうだ。

それからの彼は、私と通話するばかりでなく、自宅でカレー会を開いて会社の人たちを呼んだり、自転車で少し遠くのカフェへ出かけたり、1人で自宅にいる時でもゲームをしたり映画を観たり、休日にいろいろな過ごし方をするようになった。
また彼はSNSを通じて、私以外のポリアモリーの人たちと知り合い、その人たちに「恋人がポリアモリーであることについて悩んでいる」という相談をしたりする中で、少しずつポリアモリーに対する理解を深めていった。

もちろん、何もかも一直線に良い方向へ向かっていったわけではなく、三歩進んでは二歩戻るように、昨日は落ち着いていたけれど今日はまたケンカしてしまったり、という日々。
朝まで通話しながら泣いたことも、一度や二度ではない。

それでも、「言いたいことは、ネガティブなことであっても我慢せずに言う」「話し合うことを諦めない」という姿勢がお互いにあったからこそ、毎週のようにケンカしながらもひとつひとつ分かりあい、信頼を積み重ねていくことができたのだと思う。

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