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「もうひとつのウェディングベル」
🐥マイケル🐥 男性
公開日|2022.11.26
更新日|2022.11.26
学生時代から、5年以上付き合って結婚も考えていた彼女がいた。
彼女は由緒ある呉服屋の長女で、平凡な家庭育ちの僕とは釣り合わないと、
当初から彼女の母親に交際を反対されていたが、まだ若かった僕は、そんなの本人達の気持ち次第で関係ないと特に気にしていなかった。
時が経ち、本気で結婚を考え始める時期になると、彼女は母親から許可が得られない事に悩む様になり、次第に二人気持ちにもズレが出始めた。
僕の気付かない所で、彼女は親の紹介でお見合いをし、その彼と交際する様になっていた。
しかし、僕への思いを断ち切れずにいる彼女に対して、母親はついに業を煮やし、12月の寒い夜に僕を彼女の実家に呼び寄せ、僕の前で
「どちらを選ぶのか、はっきりしなさい!」と、彼女に選択を迫った。
永遠とも思える様な長い沈黙の後、彼女はお見合いした彼氏の名前を答えて、僕達の恋は終結する事になった。
しかし、彼女はどうしても気持ちに区切りをつける事が出来ず、彼氏との結婚式が迫ったある日、突然僕の所へやってきて、「まねごとでも良いので、貴方と結婚式を挙げてから、彼のもとに嫁ぎたい、気持ちの区切りをつけたいの」と言い出した。
僕は、少し戸惑ったが彼女の希望に沿う事にして、手持ちのお金をかき集め、安い指輪を買い、近くの教会に降りしきる雨の中バスに乗って向かった。
夕方のミサの直前のひと気の無い教会に忍び込み、僕達は二人だけのウェディングベルを鳴らした、せめてヴェールの替わりにと彼女は持ってきた白いハンカチを纏い、僕は彼女のくすり指に安物の指輪をつけてあげた。
来年の春に、彼女はもうひとつのウェディングベルを鳴す、
僕の知らない名前になって、新しい暮らしを始めるのだろう。
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