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優しくなければよかったのに
伊織
公開日|2023.05.20
更新日|2023.05.20
昨年の冬、少し肌寒くなってきた時期だった。
結婚の話もしている彼氏が、地元に異動になってなかなか会えなくなること、それがきっかけでデート中も喧嘩が増えて険悪になったこと、飲み会で泥酔して介抱してくれた上司と関係を持ったこと、全部1ヶ月で起きたことだった。
スマートフォンの連絡アプリが震えて受信を伝える。
「仕事終わりにありがとう。待っているからゆっくり来てください。」
そういう身体の関係になった後も、上司は仕事上変わらなかったしどちらかと言えば少し優しくなったかもしれない。彼氏と喧嘩した時にぐちぐちと取り止めのない話を黙って聞いてくれた。
やれるから都合がいいだけってもっと分からせてくれればいいのに。もっと割り切っていられるのに。
ひどい優しさに縋りたくなってしまう。
抱かれた後はいつも腕枕をして私の髪をくるくるして遊ぶのが上司は好きらしい。そうした時はいつもの敬語がなくなるのは悪くなかった。
かわいいね、と手遊びする上司の薬指には銀色が淡く光っていた。
今限定の都合のいい言葉だってわかってるけど、耳障りのいいそれを手放せない私は本当に愚かだ。
それから今に至るまでズルズルと上司との関係は続いている。私が続けさせている、が正確かもしれない。刺激の強い経験が忘れられないのか、一時の優しさに毒されているのかは私自身にも判断はつかなかった。
険悪になった彼氏とは今は仲良く出来ており、来年こちらに戻ってくるタイミングで籍を入れることを話している。
結婚するまでの期限付き、あと何回会えるだろうか、そんな最低な事を思いながら私は、
「今週会いたいです、時間よろしいですか?」
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