恋愛のわずらわしさについて

私には好きな人がいる。
そして、好きな人ができたら、「ご飯に行きませんか」と提案して先へ進めたい。
「もしかして好かれてるのかな」と思われて相手が乗り気になる可能性もあるし、何もしないで過ごすよりは何かして結果を出す方が、失敗が早い分次のチャレンジも早い。
ただ、今回は大っぴらに恋愛へ持ち込みにくい理由がある。
気になっている相手は、友達の元彼だからだ。

古くから存在する、「恋と友情、どっちを取るか」問題。
これがまた、悩みどころだ。
まず、恋が叶う望みが低いこと。
相手の好みははっきりしている。可愛い系でややぽっちゃり体型、明るくてよくしゃべる女性が好きなのだ。自分はどちらかといえば綺麗系で痩せ型、口数が少なくおとなしい性格。まあ、好みの女性と対極にいる。綺麗系がツボにハマる人からは美人だと褒めてもらえるけれど、彼についてはちょっと無理筋かなという自覚はある。
ただ、彼は常に彼女を切らさないようなとんでもなくモテる男性ではない。水面下での人気の程は知らないが、少なくとも彼女が何年もいないのは間違いない。それに、そろそろ身を固めたいと思ってきたようなので「好みじゃないけど、将来を考えたらこういうタイプもありかな」と血迷ってくれる可能性を狙っているところ。
もっと確実性が高ければ、迷わず恋を取る。

次に、友達の受ける打撃が大きくはなさそうだということ。
曲がりなりにも友達のことだ。自分が恋愛を取ったせいで尋常でなく辛い思いをさせることになったら、悲しくないわけがない。
自分自身にも経験がある。ばっさり振られて落ち込んでいれば、元彼と友達が交際してしまい、周囲は歓迎ムードで「真実の愛」だの「運命の相手」だのと、わざわざこちらに聞こえる場所で二人を褒めたたえる。数年前は「あんなひどい男と付き合うことないのに」「あなたには釣り合わないよ、もったいない」等と大反対してきたのに、彼女が交代したとたんに「素敵な彼氏」とかなんとか言いだしたのだ。全員がカップルの味方ではないが、だいたいは黙って事態の収束を待つだけで、慰めてくれる人はほんのわずか。辛いのをどうにかこらえても、どうしたって二人に対してフレンドリーには振舞えない。何か話しかけられても「うん、そう」「別に…」「ごめん、ちょっと外すね」ということになる。二人の前で泣き崩れないよう、あるいは悪口をわめきださないよう、理性のブレーキを強すぎるほどかけた結果である。その様子に腹を立てた元彼が「友達になれないなんて酷いやつだ。態度が悪すぎる。俺がお前を嫌いになる前にどうにかしろ」と非難する。元カノには何も言われる筋合いがないとか宣っていた男だが、まあ、往々にして自分が元カノの言動にケチをつけるのはよしとするものだ。こちらが弱った様子を見て同情し、前向きに生きられるようになるセミナーに連れて行こうとしてくれる友人もいた。最終的には立ち直ったが、控えめに言って地獄。友達を名乗っている以上、とてもそんな目に遭わせられない。

しかし、今回はそうではない。
友達が彼を振ったのだ。経緯は詳しく書かないが、彼・彼女双方から話を聞いたところ、彼女が彼のことを見限って一方的に別れを通告したらしい。そして、他の男性との交際をスタートした。現在は結婚して妊活の最中。経済的にも恵まれており、やや頼りないが優しい旦那さんの舵取りをしながら家庭を運営している。ちなみに振った彼との交際期間はほんの数か月で、深い関係にもなっていない。しかも、もう片手の指より多くの年数は過ぎた。二人は今も友達付き合いをしているが、誰にとっても過去の話になったからこそだ。
相手に未練がなく、現在も世間的には幸せと言ってよい範囲内。所詮、他人に結婚生活の内情はわからないけれど、旦那さんについて「何々をしてくれた」「こんなことも言ってくれた」というのろけをちょくちょくSNSで披露するところを見ると、心の余裕はありそうだ。少なくとも、「彼を振ったのは間違いだった！」という後悔や浮気願望を読み取れる材料はない。普通なら、そんなに気にしなくていいか、と思うところだ。

ただ、懸念がひとつある。
まだ彼を好きではなかった頃のこと、私は別の恋愛に行き詰まっていた。といっても初手も初手、好きな人から相手にされる気がしないと悩んでいただけだが。
基本的に友達に恋愛相談はしない。ただ、弱気になっていて、深酒した直後、女性とコイバナをしなさそうな仲間がそばにいる場合は別だ。同性に恋愛模様が伝わるのはなんとなく気まずいが秘密の守れそうな異性なら傷は浅い。そして、付き合いが長かろうとどうにも壁を壊せない困った性格の自分でも、酔っぱらうと少しだけ対人ハードルが下がる。そして、というわけで、男性の中で一番近くにいた彼に「とにかく恋愛がうまくいかない！女性として魅力が低すぎて困っている！」などと絡んだ。まあ、そうやって絡めば彼も友達への気遣いとして、「別に魅力がないことはないよ」くらいは返してくれた。いい人なのだ。
ところが、彼が帰るとすぐ、女友達が私のもとへ来て言った。
「相談してたの？Aさん（当時好きだった人）の恋愛観は変わってるから、あいつに聞いても参考にならないと思う。やめた方がいいよ」
声が大きくなっていたので、思ったよりたくさんの人に聞かれていたのかも、と恥ずかしさを覚えた。けれど、向かい合った彼女は酔っ払いの目から見ても、険しい顔をしていた。なんだろう、変だな、と思いながら、「そうなんだ？」と返した記憶がある。
さらに、彼女が去ったあと、その親友（既婚女性）も気づかわしげに聞く。

「彼と友達として仲がいいんだよね？」

「うん！最近ちょっと仲良くなれてうれしい！」

自分は友達百人作れるタイプではなかったため、趣味の合う人と親しくなるのはかなりうれしい。社会人になって人付き合いが難しくなってからは尚更。彼も人見知りをする性格だったので、また一枚、心の扉を開いたぜ！という達成感に近い何かもあった。
ど直球の本音が伝わったのか、それ以上は聞かれず、別の話題に移った。
ただ、翌朝になって考えると、なんだかおかしい。
あれは牽制だったんだろうか。
幸せな結婚をしてパートナーと良好な関係を築いているのに、たかだか数か月付き合ってばっさり振った元彼に、自分より親しい女が出来るのが嫌だったのか。親友が気にかけるほどに。

あれから、彼のことを好きになって、どうしてもその出来事が思い出される。
もし上手くいって彼と恋人になれても、祝福されないのかもしれない。
彼女だけでなく、「私よりも、彼女と仲良くしたい友達」から、とがめられるんじゃないか。
恋愛がうまくいくならまだいい。
振られてからその件が周囲に漏れたら、何も得られずにただ失ってしまうだけ。
もちろん、恋愛を取って友達が萎れてしまうのなら、心から「友達を取る」と決断できるけれど…。

大人の恋愛も難しいな。

引用元：note