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三島由紀夫の文庫本が入っている1つ上の先輩の話
塩すずめちゃん
公開日|2022.06.04
更新日|2022.06.04
尻ポケットにいつも三島由紀夫の文庫本が入っている1つ上の先輩がいた。
タイトな柄シャツにベルボトム、ロン毛ではっぴいえんどが好きだと言っていた。
猫背で憂いのある立ち姿がなんとなくおしゃれで、うっすら人気だった。
中でもモモちゃんはその先輩に夢中で、誰かれ構わず先輩が好きだということを吹聴してい た。
モモちゃんはおしゃべりで甘え上手で、古着の花柄ワンピースと丸いポシェットがトレードマ ークだった。
あるとき先輩は「最近このゼミの空気はぬるい」と、夜中に学校に侵入してゼミの部屋を無茶 苦茶にした。
尻から三島由紀夫が乗り移ったのかもしれない。
後日、ゼミ生を代表して部屋を片付けた私のところに先輩から電話がかかってきた。
「あの時の自分はどうかしてた、皆に申し訳ない」と丁寧に謝罪されて、許すことにした。
そして「モモが俺のことを好きらしい。そのことを公言してるのがすごく迷惑。 ゼミ内で恋愛とか、そういうぬるいのは嫌だし、今回暴れた原因のひとつだ」 先輩はそう言った。
後日ゼミ部屋でたむろしていると、遠くからお揃いのバンダナを巻いたモモと先輩が歩いてき た。
「モモと先輩、付き合うことになったらしいよ」と友達に聞かされた。
私はあの日の電話で先輩の心の葛藤を垣間見れたのかもしれない。 人間はかわいい。
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