浮ついた気持ち

大晦日は毎年、カウントダウンパーティーに参加する。

同棲中の彼氏は毎年12月は繁忙期で、ただただ忙しそうにしているか疲れて爆睡している姿しか見ないし、一緒に過ごそうとかそういう概念もない。
遊びに行くと言えば、いつもと変わらず「行ってらっしゃい」と言われるだけ。
外で遊んでいたい私にとっては好都合。
パーティーといってもかしこまったものではなく、みんなで呑んで騒ぐ呑み会みたいなもの。
今年も「あけましておめでとう!」と沢山の人達と新年の幕開けに乾杯した。
ひとしきり乾杯と歓談を済ませて一息つく。
スマホを確認したら、シュウからLINEが入っていた。

23時頃に

「なみ、今年は衝撃的な出会いに
色々と楽しく過ごせたよ、ありがとう
来年もこの調子でよろしくお願いします♡」

そして0時ピッタリに

「年明けたな、なみ^^
今年も一緒に思い出たくさん作ろ
一緒に居てな、お願いします♡」

と入っていて、びっくりした。
大晦日は毎年夜中の1時半くらいまでバタバタして、少し眠ったら朝から実家に行くんだ、って聞いてたから……LINEくれるのは眠る前か、翌朝実家行く前くらいになるだろうなー、って勝手に思っていた。

出会って半年弱、LINEで毎日やりとりはしてるけど、今は「おはよう」「お昼休みだよ」「仕事終わった」って定期連絡と「今日は○○行ってくるよ」「行ってらっしゃい」「ただいま」「おかえり」って報告し合うことばかり。
10日に1回くらいのペースで会えていたのは3ヶ月程度で、今は月に1回、会えるか会えないか。
なかなか会えない今、私から「会いたい」と言わなかったら、この関係はどうなってしまうんだろう?と不安になったりもする。
だからLINE越しでも「一緒に居て」って言葉は嬉しかった。

「シュウ、あけましておめでとう♡
こちらこそ、昨年は出会って
楽しい時間すごせたよー!
今年もいっぱい一緒に過ごしたいね!
いっぱい心配かけちゃうけど、
いつもありがとう♡
今年もよろしくね」

そう送って、パーティーを早々に切り上げて帰宅した。

「シュウ、いつも会いたいって言うと時間作ってくれてありがとう
たくさん幸せもらってるから、今年はシュウがしたいこと、行きたいとこ、一緒に実現しようね!
お互い忙しいだろうから、すぐには無理かもだけど、少しずつでも」

そうLINEで伝えたら、「うん♡嬉しいよ、そうしたい!時間作って会おうな」って返ってきたけど、正月は当然会えるわけもなく。
シュウは実家へ行ったり、自宅で家族とすごしているようで、「おはよう」のLINEが来たあとは夜まで音沙汰はなく、夜も「寝てた…」などの一言があるだけ。
仕方がないことだ。
続けていくためには、見つからない努力が必要な関係なのだから。
毎日LINEを送ってくれるだけ、優しいと思う。
わかってはいるが、長い休暇中に1度も会えないのは、やはり寂しい。
3日の夜「明日は出かける予定だったけど、生理で辛いからやめておく」と話したら「あらら、来ちゃったのか…明日はそっちの方に買い物行こうと思ってた」と返ってきた。
…どういうこと?
生理じゃなかったら、買い物ついでに会ってセックスして帰るつもりだったの?
よくわからないから「明日、こっち来るの?混雑してないといいね」と返事したら、次の日の「おはよう」までLINEはなかった。

シュウから「会いたい」と言い出すことは、もう何ヶ月もない。
痺れを切らした私の「会いたい」には「うん、会いたいな」って返してくれて、お互いの都合がつく日を擦り合わせてはくれるけど。
今は自分から時間を作る気にならないけど、都合のいい女をキープしたい、って事だろうか。
実際、お互いに「都合のいい関係」なんだけど。
下手に惚れたりするから、話がややこしくなる。

長い休暇の最後の土日に趣味仲間の新年会があった。
日が落ちる前から始まって、夜まで騒ぐ会。
シュウに会えなくて落ち込み気味だし、気分転換も兼ねてこの間みたいに普段の集まりではしない格好で出かけた。
「なみちゃん、どうしたの?色っぽいじゃん、肩きれいだねー!」
久しぶりに会う女の子達はキャーキャー言いながら露出した私の肩を撫でにくる。
「ちょっと気分転換」
えへへ、と笑うと「すべすべー!気持ちいいー!何か塗ってるの?」とみんなして撫でまくるから可笑しかった。
男性の知り合いは「あれ!?なんかセクシーだな!」って目を丸めるから「まぁまぁ、そんな時もあるよ」って笑う。
気のおけない男の先輩は「めちゃくちゃ肩出してんな、誰かと思った」って笑うから「こんな格好してるから、まぁ話題に触れざるを得ないよね?」と私も笑う。
「こんなに肩出してたらな!」
「出してたからって、先輩に何も得ないでしょ?」
「ないな!笑」
「おい!笑」
サラッと接してくれる人ばかりだから安心してこんな格好で来れたんだけど、この先輩は付き合いも集まりの中で一番長くて、大好きなお兄さん的存在の人。
この人が居る時に私が居る確率が高すぎて、「付き合ってるの?」と時々言われるくらいだけど、怖いくらいに何も無い。
お互いに、異性として興味がないんだろう。
でも「あの人に絡まれた」とボソッと言えば、「お前、コイツの彼氏じゃねーだろ!」と叱りに行ってくれるから、慌てて私が「怒ってほしくて言ったんじゃないよ先輩!」と止めに入るような、そんな男っぽい人だ。
「冷えるから気をつけろよ、若くねぇんだから」
「うん」

色んな人と話しながら呑んで、呑んで…ちょっと休憩、と外に出たら、三が日も終わったのに振る舞い餅を配っていた。
つきたてだというそれは美味しそうで、一皿もらったところでケイタくんと鉢合わせた。
「よぉ」
「年末ぶり」
「あの日、ちゃんと帰れたのー?」
「覚えてない、何も」
そう笑うから
「何だよ、アレも全部忘れちゃったのかよ?」
ってカマかけたら
「えっ、俺、なんかした?えっ?」
って焦ってるから
「いや、忘れたならいいよ」
って笑う。
「餅もらった、食べる?」
「俺、餅あんまり好きじゃなーい」
「そ?美味しいのに」
きなことあんこがまぶしてある餅にパクつく私をじっと見てるから「欲しそうじゃん」って笑うと、唇を見つめてくる。
…忘れてねーんじゃん。
「じゃあ、ちょっとあげる」
首をちょっと傾けて顔を寄せたら、口移しでわけてあげる、って意図をすぐ察したようで「んー」って声出してキスしてきたから、舌で餅をあちらの口に渡す。
「美味しいでしょ」
「んー、なみちゃんの味だから美味しいかも」
モグモグしながら、そう答えるから笑う。
「ねぇ、本当は好きな人できたでしょ」
ケイタくんからの問いに首を傾げる。
「さぁ?」
「いいなー。俺は失ったばっかだもん」
ケイタくんの彼女とは何回か会ったことがある。
お酒が好きで、明るいタイプの子。
「そうなの?」
「浮気ばっかすんだもん、アイツ」
「…耳が痛ぇな」
はは、って笑う。
「何、浮気なの?」
「あっちは奥さん居るの、私も一緒に住んでる人が別に居るし」
「そうかぁ……じゃあ新しい彼にいっぱい愛してもらって、こんなエッチになっちゃったの?」
「んー、どうだろ?笑」
「いーなー……愛されたい、俺も」
「……愛されてんのかねー?わかんねぇや」
乾いた笑いをこぼすと、ケイタくんがタバコを取り出す。
「見て、キャメル買ってみたら、なんか細くなってた」
箱の中には細いタバコが並んでいる。
「あ、本当だ」
私もタバコを出して火をつける。
「吸口が茶色いやつだ、キツイの吸ってるんだね」
「そう?ライトだよこれ。吸ってみる?」
吸いかけを渡してあげると、一口吸う。
「8だな、キツイ」
「日に何本も吸わないんだけどね…吸う時はあんまりゆるいのだと物足りなくて」
先に吸い終わったケイタくんが「戻るね」って言うから「うん」と手を振った。

タバコを吸い終えて戻って、お酒片手に仲間たちと話して、楽しい時間が過ぎた。
途中、隣に座ったケイタくんが私のお酒を2回も横取りして呑んじゃって「おいー」って小突いたけどフル無視されて「んだよ、コイツ」てなったりした。
一旦お開きになって、お腹すいたな…って二次会も行くつもりで皆が出てくるのを外でぼんやり待っていたら、シュウはどうしてるかな…と考えてしまう。
スマホを見てみるけど、連絡はない。
なんか……バカみたいだな。
ふとそう思ってしまって、急に泣けてきちゃって「やべ、酔ってるな……」て俯いてたら
「どうした?泣いてんの?」
顔を覗きこんできたのは、ケイタくんだった。
「……酔っちまった」
へへ、て笑うけど、目からはポロポロ涙が溢れてくる。
「泣くなよー、なみちゃんにビール買ってきてやったんだから」
「え、何で?」
「さっきなみちゃんの、いっぱい呑んじゃったし」
変なタイミングで優しくすんな……とグラグラしながら、渡された缶ビールを受け取って、ありがとー、って笑う。
「幸せなんだろ?泣くなよー」
「…幸せかわかんねぇから泣いてんだろ、バカ」
プルトップを開けてグビグビ呑みながら答える。
「幸せそうだったじゃん、ついさっきまで」
「酒呑んでりゃ幸せよ、そりゃ」
「…ぁー、寒ィ」
上着らしい上着を着てないケイタくんが身震いした。
「なんでそんな薄着なんだよ」
「上着どっかに忘れたんだよっ」
「バカだなー」
吹き出しながら見てたけど、痩せっぽちなケイタくんは本当に寒そうで可哀想になって、抱きついてみる。
「ちょっとはあったかい?」
「全然。笑」
「んだよー、かわいくねぇな」
背丈が私と変わらないケイタくんをギューッと抱きしめたら、なんだよーって笑う。
「あれー?どうしたの」
店から出てきた子達が寄ってきたから
「甘えてんの」
って抱きついたまんま答えたら、ケイタくんも「甘えたいらしいよ」って笑う。
「……いい匂いする」
首もとを嗅いでそういうから、顔を見るとキスされた。
耳もとで囁く。
「ケイタくん、抱いて」
酔った頭で、口が勝手にそう言ってた。
何度かしたキスが、気持ちよかったからだと思う。
シュウとするキスとはまた、違う味。
「俺、ちゃんと愛してくれる子しか抱けない」
「男、全部切ってくるから」
「……そんな事言うと本当に抱いちゃうよ、いいの?」
「……いーよ」
「……キスはしてあげられるけど、抱いてはあげられない。他の人に抱いてもらいな」
「……他の人に抱かれるのは嫌」
二次会に移動するよー、って声がして、私はそのままフラフラついて歩き出した。
ケイタくんはついてこなかったから、そのまま話すこともなかった。
シュウからは私の浮ついた気持ちを嗅ぎとるかのように、「帰り、気をつけてな」とLINEが入ってきた。
「うん、ありがと」とだけ返す。
いつだったか、シュウから「もしも、なみが他の人と何かあったら、俺は身を引くからな。好きだから、そう決めたんだ」って言われた事をぼんやり思い出していた。
どこからが「何か」なんだろう。
わかんないけど、まぁこれはもうシュウから見たらアウトだろうな。
バレたらバレたで、もういいや……
そう思うくらいには、会えない日々に疲れてきている。

次の日の集まりでは、露出はないけど普段は着ない女の子っぽい格好をして参加したら「今日は肩出てないけど、かわいいな!」と男性から沢山声をかけられた。
肌の露出がない方が反応がいいなんて、みんな紳士だなーと思いながら、ありがとう!と乾杯する。
女性陣は「えー、肌見せてよ、触りたかった!」と残念そうで、みんな心は男子なのか?と笑った。
お腹減ったー、とおつまみをパクついていたら、ケイタくんが入ってきた。
「よぉ」
「昨日ぶり」
「昨日の記憶は?」
「ない。笑」
「だろーな。笑」
「なみちゃんは?」
「残念ながら、全部覚えてるんだよな」
そう言うと、ちょっと固まるケイタくん。
……やっぱり覚えてるんじゃん。
気まずいし、忘れたことにしてくれてて全然いいけど。
「今日、また雰囲気違うな」
「昔の服出てきたから着てみた」
「かわいい」
「ほんとー?ありがと」
ニコッと笑うと、ケイタくんの電話が鳴って、別れたという彼女からだった。
切れてないところを見ると、まだ好きなんだろうな。
ケイタくんも複雑な恋愛してんだなー、と電話してる姿を眺めていた。

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