ヒミツの恋

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普段は仕事でシナリオライターをしてます。
ただただキュンとしたい時に、書き溜めていた恋愛ものを出して見ました


(フィクションです)

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新原琴音(にいはらことね)は、米山晴太(よねやませいた)と付き合っている。
だが、そのことを知る者は、この学校に誰ひとりとしていない。

苦手な数学の授業中、琴音は斜め前の席にいる晴太の横顔をペンを回しながらぼんやりと眺めていた。



サッカー部である晴太は、少し日に焼けて肌が黒くなった。
それでも爽やかな印象は変わらず、端正な横顔は琴音が絵が得意であれば、スケッチしたいくらいに整っている。

それに晴太は頭もいい。
塾にも通っていないのに、学年で一番の成績を誇る彼は、みんなの憧れの的であった。

対する琴音の平凡ぶりと言ったらひどかった。
クラスのカーストでも真ん中あたりで目立ちもせず、成績は悪く、補習を受けなければ卒業も危うい。

そんな晴太と琴音が付き合っているなんて、周囲に知られてしまったらどうなるだろう。
きっと不釣り合いだと言われて、バカにされるに決まっている。
それが嫌で、恥ずかしくて、琴音は晴太に付き合っていることは秘密にしてほしいとお願いしてあったのだ。

告白は晴太からだった。
なぜ琴音なんかに告白してくれたのかわからず、最初は困惑したのだが、晴太が言うには、琴音の優しいところが好きだということだった。

琴音は自分自身のことを『断れない性格』だと思っている。
カースト上位の子たちがカラオケに行くために掃除当番をサボろうと押しつけられれば笑顔で「いいよ」と言い、授業中に寝ていた隣の席の男子にノートを貸してくれとお願いされれば、こちらも笑顔で「いいよ」と貸す。
そんな琴音の『断れない性格』を、晴太は『優しい』と受け入れて、好きにまでなってくれたのだ。

(米山くん、今日もかっこいいな)

琴音がそんなことを思っていると、晴太がふとこちらを振り返った。
目と目が合い、琴音の心臓が跳ねる。
晴太は少しだけ口の端を上げると、持っていたペンで黒板を指差した。
「集中」と彼の形のいい唇が動いたので、琴音は慌てて黒板に目を向ける。
テストも近いというのに、琴音はその後の授業はドキドキしていて何も集中できなかった。

***

テスト前の今。
琴音には楽しみにしていることがあった。




それは、晴太と勉強することである。

「米山くん! お待たせ」

「おう、乗って乗って」

学校から少し離れたコンビニが琴音と晴太のいつもの待ち合わせ場所。
今日も駆け足でいつものコンビニへと行くと、晴太が自転車の後ろを指差した。

晴太に言われるまま、自転車の後ろに座ると、「つかまってろよ」と言って晴太が自転車をこぎ始める。

琴音は晴太の自転車の後ろに乗るのが好きだった。
遠慮なく、晴太のことを後ろから抱き締められるからだ。

今日も『男の子』を感じる晴太の背中に抱きついて、たどり着いたのは晴太の家。
テスト前ということもあり、琴音は晴太に家で勉強を教えてもらっているのだ。

晴太はひとりっ子で、両親は遅くまで仕事をしているため、家には誰も居ない。
静かな家に晴太とふたりきりでいると、なんだか悪いことをしているような感覚がする。

それでも健全なお付き合いをしているふたりは、ローテーブルに勉強道具を広げ、テスト勉強をはじめた。
つまらないテスト勉強も、晴太と一緒だと楽しく思えてくるから不思議である。

黙々とテスト勉強をこなすこと数時間。
晴太が思いきり伸びをした。

「はー、そろそろ休憩するか」

「うん。米山くん、いろいろ教えてくれてありがとう」

琴音が笑顔で晴太にお礼を言うと、晴太はぴくりと眉を動かし、少し不機嫌そうに机に頬杖をつく。

「あのさ……」

「うん?」

「その『米山くん』っていうの、やめない?」

「え?」

「だから……、『晴太』って、呼んでほしいん、ですけど」

晴太が頬を赤く染めながら、ぎこちなく言ってくる。
琴音もつられて顔に熱が上るのを感じ、ごくりと喉を鳴らした。

「せ、晴太」

「はい」

「晴太。ふふっ、なんか照れるね」

「やめろよ、言われると余計照れる」

晴太は恥ずかしそうに視線をそらしたが、耳まで真っ赤になっているのがわかる。
琴音が思わず笑うと、「笑うなよ」と髪の毛をくしゃくしゃに混ぜられてしまった。
それがくすぐったくてまた笑ってしまった琴音に、晴太も笑いだす。

この日から、琴音はふたりきりのときだけ、晴太のことを名前で呼ぶようになった。

***


テストが終わった。
琴音にとって、いつもはいろいろな意味で終わってしまうテスト期間であるが、今回は晴太に勉強を教えてもらったおかげで補習は免れそうな気がしている。



友人と廊下を歩いていると、「新山さん」と後ろから聞き慣れない声が聞こえた。

振り返ると、そこには学校でも有名なイケメンである杉村先輩が立っていた。

バスケ部の中でも高身長で顔もいい、杉村先輩のファンは多い。
最近付き合っていた彼女と別れたという噂も学校中を駆け巡ったほどの有名人だ。
そんな有名人が真面目な表情をして声をかけてきたことに、琴音が驚きながらも「はい」と答えると、杉村先輩はとんでもないことを言い出した。

「新山さんのこと、ずっと気になってて……。よければ、俺と付き合ってくれない?」

琴音が杉村先輩と接点を持ったのは、図書委員で一緒に仕事をしたときのことだ。
思い返せば、そのくらいの時期に杉村先輩が彼女と別れたという噂を聞いた気がする。

まさか自分のせいで杉村先輩が彼女と別れただなんて、思ってもみなかった琴音がフリーズしていると、「ダメっすね」という声が聞こえて、いきなり手を握られた。
ハッとして横を見ると、そこにはいつの間にか晴太が立っていた。

「俺たち、付き合ってるんで」

「晴太……」

思わず人前であるにもかかわらず、名前で呼んでしまったことに慌てたが、晴太は気にも留めていない様子だった。
呆然とする杉村先輩に「じゃあ、失礼します」と言って、同じく呆然としている琴音の友人を置いて、晴太は琴音を廊下から連れ去ってしまう。

昇降口から外に出て、自転車置き場まで来るとちょうど人がいないタイミングであり、晴太が琴音をようやく振り返った。

「ごめん、俺たちが付き合ってること、内緒だったのに。どうしても我慢できなくて」

晴太の謝罪に琴音は「いいの!」と首を横に振る。

「私こそ、内緒にしようなんて言ってごめん。みんなに話してたら、杉村先輩だって告白してこなかったかもしれないのに……」

「じゃあ、これからは内緒にしなくていい?」

「うん。私も晴太が誰かに告白されたりするの見るの嫌だから」

琴音がこくんとうなずくと、晴太は「やった!」と言って、琴音を抱き締めた。

誰がいつ来るかもわからない自転車置き場で恥ずかしいなと思いながらも、琴音も嬉しくて晴太を抱き締め返したのだった。

***

「晴太。一緒に帰ろ」

「おお! もちろん」

部活終わり。
サッカー部に顔を出した琴音が晴太に声をかける。

校内公認カップルとなった琴音と晴太は、他の部員にひやかされながらも、共に帰路についた。

自転車を押す晴太と琴音は、ふたりの時間を少しでも長く過ごそうと、ゆっくりと歩いて帰るのだった。


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