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侮辱
まゆ
公開日|2023.01.28
更新日|2023.01.28
ダイキと会う日はいつだったか。前回の電話で口頭で話しただけで、一週目と言っていたのか二週目と言ったのか思い出せない。一週目に予定が重なってしまいそうなので、なるべく早急にダイキに確認したい。妻帯者であるダイキに迷惑が掛からないよう時間帯を考え配慮した時間に送るが、自分勝手なダイキは一日メッセージを未読のまま放置した。仕方なく先方に一週目でOKと告げ、更に二日後。やっとダイキから「一週目だよ」と返事が来た。自分が返事が欲しい時はせっつくくせして、こちらが返信が欲しい時は二日無視。この時点で私もダイキに付き合うのに限界を感じ始めていた。
そもそも以前から、彼は人としておかしい所ばかり。自分の要望は激昂してでも押し通すが、人の些細な頼みも聞き入れない。こちらの話を理解しない、こちらの都合も理解しないなど、あげればキリがないが、積み重なったものがここらで崩れそうになる。「確認出来なかったから、一週目に予定を入れちゃった」そう言うと、ダイキが激怒した。48時間もある間に一回自分がメッセージを確認すれば済んだものを、会う機会を潰したのはお前だ!と私を罪人の如く責める。
もうやっぱり限界だ、終わりにしよう。
そう思い「もう終わりにしよう」と言うと、いつものダイキの罵詈雑言が始まった。いつもそう。「お前は最低な女だ」「さっさと消えろ」「むかつく」言うだけ言わせて返事をせずに置いたら、疲れたのか気が済んだのか大人しくなった。翌日になり、無視したままで終わるのも後味が悪かったので、今まで交際してくれた事への礼を書き記したメッセージを送信した。すると程なくして
「もう付き合わねぇよ、でもお前とのセックスは今までして来た誰よりも良かった。だから他の女が見つかるまで、付き合わなくても抱かせて、これからも」
という返信が来た。自分勝手でワガママで、産んだ子供が一人増えたような大変さの中ダイキに合わせて付き合ってきた。情が沸いていたから。けれどそうまでして付き合ってきたダイキから寄越された最後の言葉に、笑いが漏れる。彼は最後にとっておきの屈辱をくれた。吹っ切れた、もう戻らない。何より今回は本人からもう付き合わないと言っているし。
それでも私は、彼に感謝がある。
地味、ブス、取り柄も無い。そう旦那から思い込まされて来た私に自信をくれたのは彼だから。私に欲情し激しく抱き、私を誉めてくれた事は忘れないし、忘れたくない。酷い性格だったけど…
本当に酷いのは、私だ。私はダイキと繋がりながら、裏切って他に二人の男と寝た。だからダイキがくれた屈辱の言葉も受け入れ、返信はしない。それっきり、ダイキからもメッセージは来ず私からも返信せず。もう少し彼に理解力があったら、もう少し穏やかに話を聞いてくれたら、衝突もせず上手くいっていたのにと思う事はたくさんある。それを思うと子供という鎹(かすがい)も無いのにあの性格のダイキとずっと連れ添っている奥さんは、凄いと感じる。セックスレスは別として、やはり心は通じ合って互いに愛し合っていたのだろう。今までした喧嘩を振り返ってみても、自分が悪いと感じる事があまり無い。彼は発達に多少問題があったのかも知れない。あまりにも話が通じない事も多かった。ダイキと共に二人の男を同時に知り接して来たが、タカさんやしゅうくんとは、喧嘩など全く無い。喧嘩になるような理解力の無さも無ければ、どちらも気遣いを自然にしてくれるし何より優しい。だから私も酷い言葉などついぞ返す事もなく、優しい言葉を返す。
手が掛かる子ほど可愛く、愛おしい。男にもそれが言えるのかも。タカさんもしゅうくんも優しく一緒に居て何も苦痛では無いが、一番愛していたのはダイキなのは間違いない。一番私を怒らせ、一番私を貶し、一番私を振り回した彼が一番大好きでもあった。ただもう、全ては過去。
不倫に幸せなゴールなど無い、あるのは地獄だけ。それでも私は、ダイキと交際した事に微塵の後悔も罪悪感も無い。離婚、慰謝料を払う、人の噂になる等いずれかの地獄に落とされる事も覚悟の上で踏み込んだ。そして私に与えられた地獄は、中でも軽い“一度愛した相手に侮蔑される”というものだった。罰を覚悟しても、私は誰かに女として必要とされたかったのだ。それが僅かな間でも、喧嘩が絶えない中でも、叶った。もう誰もこれ以上愛すまい。
愛や恋にも体力が必要で、そんなものは若く力が漲っている時にやるもので、中年からなんてやるものじゃない。中年からはライトなセックスフレンドとたまに会ったり、その都度マッチングアプリで相手を変えて遊ぶくらいが丁度良い。
そう心底思いながら、LINEのダイキのIDを削除した。
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