呆れ

まゆ

公開日｜2023.03.26

更新日｜2023.03.26

ダイキは自分で気付いてはいない。怒らなくて良いような些細な原因でも怒り狂い、私に罵声を浴びせ、一人で疲れている事に。毎度始まるお決まりの激昂は、私が別れを切り出すと加速する。今回は人格否定から体型まで批判され、最後は私から「気持ち悪い、二度と抱かれたくない」とメッセージを送信して終わった。あちらもそこまで強い言葉が私から出るとは思わなかったらしく、それきり返信は来なかった。相手に「ごめん」と言うだけで、こちらからも「大丈夫」や「私こそ」と返る。そんなやりとりで済むのに、相手の気持ちを推し測れない障害故に、怒鳴り散らして手が付けられなくなるのがいつも。彼の奥さんを、時折凄いなと感じる。私ならダイキの女房にはなれない。自分の旦那もモラハラだが、ダイキの言葉はDVの域だと思うから。たまに会う関係ですらここまでなら、暮らしたりしていたら私の身が持たない。

いい加減終わりにしたくて放置していたら、三日後、また何事も無かったかのように「仕事の休憩中！」とメッセージが来て呆れた。「別れたのに、よく普通にメッセージして来るね」と言うと「まゆとの恋愛は疲れるから、好きとかはもういいよ。俺も懲りた。だからそういうのは無しで体の関係だけ持ちたい」などと返った。自分が惚れた晴れたという恋愛関係に持ち込みたがった癖に、全面的に私のせいにして“懲りた”とはどの口が言うのか。呆れた後「仕事忙しくて次の相手を探す暇が無いんだよね？だから当面私で済ませたいんでしょ？なら私がマッチングアプリででも何でも、新しいあなたの相手探してあげる。話付けて来るから」そう言った。ダイキの相手をさせられ続けるより、面倒でもその方が後腐れが無いから良い。まるで次の飼い主を探すようだな、と苦笑しながら返信を待つと「そんなのいらない、まゆがいい。だからこれからも抱かせて、お願い。他の女を探す気は無いんだ。一生まゆがいい」そう返る。

頭を抱えたが、ここまで言うなら私を多少は特別視しているのだろう。ただ私が疲れて逃げたくなると、激昂し罵声を浴びせてしまう。それに疲れたからもう好きだとか愛してるは言わない…と。なぜ疲れてしまうのかの答えは簡単、ダイキが些細な感情のコントロールすら出来ない男だから。相手の感情も理解出来ないし、怒りを自力で降下させられない障害だから。ただそんな彼なりにも悩んで、その末に出した答えが“別れたまま、好き同士で居ない事”なのだろう。そうしてでも、まだ私を繋ぎ止めておきたいと足掻く。

普通の男なら優しい言葉、謝罪、プレゼントなどで機嫌を取るのに一切する気が無い事には失笑するが。苦笑いしながら「嫌、あなたは優しくないから付いて行けない」と返すも「他に彼氏作っていいよ、でも見つかるまでの間だけでも抱かせて。そう思うくらいまゆは最高な体なんだよ」とも返る。毎度ダイキとのやりとりは、私が根負けして終わるのが常。こんなにもて余しているのに、なぜ私も切りきれないのだろう…。とりあえず私達は、ただたまに会ってセックスするだけの関係になった。付き合ってはいない。

ダイキに辟易している間に知り合ったタカさんとも続いており、彼とはどんなに話しても一度も喧嘩などにならない。そしてSNSを通じて仲良くなったMさんとも、何時間話しても喧嘩になるどころか時間を忘れる。二人と全く喧嘩にならない以上、ダイキと繰り返される喧嘩はやはり原因は私に無いと改めて感じた。ここまで“お前が悪い”“お前は疲れる”と言われるなら、私の性格が悪いの？と思ったりもしたが、違う。

反省という言葉が辞書に無く私を全面的に悪者にするダイキと、ダイキを切る事もタカさんを切る事も出来ず、Mさんとも仲良くしている私。どっちもどっちで自分でも呆れるが、人生はつくづく何があるか分からないとも。40近い歳で何の魅力も無い中年女が、三人から好かれるようになるとは想像すらしていなかった。逆に恋愛経験に乏しく押しにも弱いので、全員を切りきれない為に時には疲れてしまい、逃げたくなる事もある。でも、案外全員に互いの存在をバレさせず上手くやり切っている事が意外でもあった。私はどうやら器用らしい。

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