交尾

まゆ

まゆ

公開日|2023.10.27

更新日|2023.10.27

散々喚き散らしているダイキの通話をさっさと切り、数日。SNSのDMに「最後に一度会いたい」と来た。ここで「大嫌い、二度と会いたくない」など言いたい事を言えばまた彼は激昂する。「ごめん、それは出来ないよ」と返してみると、とりあえず以降返信は返らなかった。早く次の女でも探して付き合って、私への興味が無くなって欲しい。そう願いながら大好きなやすとは会えない日々が続く。私の息子の一人がインフルエンザに罹り他の家族と隔離し看病する中、LINEに「一番下のチビがインフルエンザだよ(涙」と入った。今週もまた会えない…コロナ、扁桃炎、アデノウイルス、インフルエンザ。あらゆる感染症に阻まれ会えない日々が続き、恋しさに狂いそうになる。最後に会ってから一ヶ月と三日も経っていた。

「会いたい、顔が見たいし触りたい…だめだ、次会ったら発情期の猫みたいになりそうだ、俺」そんな文面を見ながら、猫の交尾を思い浮かべる。猫のオスのペニスはトゲが生えていて、メスに挿入した際に抜けにくくなっている。そしてトゲのあるペニスを挿入されたメスは、痛みに必死に逃げようとする。オスは覆い被さりメスの首を噛み、逃げないようにし生殖行動する。「やすが猫じゃなくて良かった、やすのは痛くなくて気持ちいいから」そう返すと「我慢出来ない、明日仕事帰りに会えないかな」と来た。やすの職場からうちまでは車で50分掛かる、仕事が終わるのは7時で途中で軽く何か買って食べながら来れば着くのは8時半、ホテルまで15分、一緒にいる時間はせいぜい2時間あればマシという所。

たった2時間の為に疲れている仕事帰りに時間を掛けて会いに来て貰うのは悪い気がして、つい遠慮がちに「嬉しいけど、疲れてるだろうから悪いな」と送ると「どうしても会いたいんだ、お願い」と返り結局会う約束をした。

翌日、仕事中の私のスマホにメッセージが来た。

「来月16日は予定ある?」

「無いよ、休みだし」

「じゃあ、○○山までドライブ行かない?」

「いいよ、楽しみ」

「俺は今日も楽しみ、早く会いたい」

「私も!」

パーティションの影に隠れて手短に会話し、ポケットにスマホを仕舞った。5時になったらさっさと退社し急いで帰宅し、二人の息子に夕食を作り置きしシャワーを浴びる。旦那は仕事帰りはパチンコに行き、併設された蕎麦屋で夕食を済ませるとLINEが来た。そのまま帰って来なきゃいいのに、そんな事を思いながら息子達にも「今日は友達と飲むから、夕食作ってあるから食べて」とLINEを送信。髪を整え化粧を直し、いつもの待ち合わせ場所に急ぐとほどなくして彼の車が来た。

「一ヶ月以上会ってなかったね」助手席に座りそう言うと、すぐに口をキスで塞がれた。朝は剃ったであろう髭が少し伸び、肌に当たる。

唇を吸われ、口内に舌が這い回る。気が済むまでキスすると、唇を離したやすが耳元で「会いたかった」と囁いた。「私も」と返すと、彼が微笑み手を握る。そのままホテルへ行き、部屋に入るなりベッドに押し倒され激しいセックスが開始された。耳を軽く噛み首を舐められ胸を吸われ、スカートを捲り上げられ下着をずらして舐められる。一ヶ月以上ぶりの彼の愛撫に、私はすぐに絶頂した。指を入れられている間も、彼の舌が体を這う。荒い息遣いで私を征服する、その雄々しい姿は普段の優しい時とのギャップが凄く、それにも私はいつも興奮を覚える。

「入れたい、いい?」我慢しきれなくなったかのように聞く彼に黙って頷いて見せると、太い彼のモノが奥まで挿入された。「熱い…」思わずそう呟くと、彼は「ずっとこうしたかったから、興奮してる」と言いキスして来た。ベッドが壊れそうな程激しいピストンをされ、私は彼の首に腕を回し声を上げる。すると、彼は私の首を軽く噛んだ。顔を上げた彼が

「まるで猫の交尾だな」と笑った。

私も小さく微笑み、彼の髪を撫で「やすのは痛くない、死ぬ程気持ちいい」と返した。もう一度覆い被さった彼がさらに激しくピストンしながら「俺も凄い気持ちいい、幸せ」と言う。そのまま筋肉質の固い腕が私を掴み、私の中に精液が放たれた。

ダイキは終わるとさっさと離れてタバコを吸いに行くのが常だが、やすは終わっても私を離さない。今日は私の胸の谷間に顔をうずめ「このまましばらくじっとしてていい?」と聞いてきた。「いいよ」と小さく答え、目を瞑る彼の髪を撫でる。激務を終えて運転しセックスし、射精までした彼が私の胸の中で寝息を立て始めた。

幸せ、と心から感じた。私は彼の何もかもを愛してる。

ただそれでも、略奪する気も再婚する気も起きない。彼は、私がつまらない日常を生きるのに必要な人。月に一回か二回会う他はメッセージで会話、それだけで良くて、それが私の今一番の拠り所になっている。

不倫は、結婚した夫婦とは違い日常を見せない。くたびれた服で家事をしたりも、化粧を落とした顔を晒したりも無く、一番着飾った綺麗な自分だけを見せられて一番したい事だけが出来る。私に必要なのはそれだ。抱き合った姿勢で彼の顔が胸元にあるので、私の顎には彼のツンツンと立った髪が当たる。それがくすぐったいし、何より抱き締めたまま眠られてしまったので息苦しい。起こしたくなくてしばらくじっとしていたが、喉の渇きを覚えたのでなるべくゆっくりベッドから出ようと動いた。それでも、どんなに慎重に動いても密着しているので振動は伝わる。目を開けた彼に「起こしてごめんね、まだ寝てて。ちょっとお茶飲む」と声を掛けると、彼が「何時?」と聞いてきた。ベッドサイドに置いていた私のスマホを手に取ると、入室してから40分経過していた。旦那と向き合ったり仕事中は、40分という時間は酷く長く感じる。でもやすと過ごす40分は驚く程短い。

「40分過ぎた、今10時ちょっと」そう答えると、半身を起こした彼が私をベッドに引きずり込んだ。一度目の射精が無かったかのように再び固くなったペニスが、膣の入り口に宛がわれる。「もう一回」おねだりするような甘い声とともに、体を貫かれた。いつも思う、この喜びがあるから私は嫌な事だらけの日常を耐えられると。私は、私の上に乗るこの男の髪も、声も、腕も、性格も、何もかもが大好き。好いた男に求められ征服される事が、私の一番の喜び。不倫が悪いとされ、非難されるのは当たり前の事。入籍は財産や血縁を守る為の契約で、そこに部外者を混ぜるのはご法度だから。そんな事は重々承知だが、それでも籍の入った相手に何の希望も喜びも見出だせないから私達は求める。そして私はそれに対し、何の罪悪感も無い。二度目の射精後も私を離さず、ずっと抱きながらしばしベッドに寝転んでいたが、そんな彼に言いたくない言葉を掛ける。

「もう出る準備しなきゃ」

それを聞いた彼は、ぎゅっと私を更に抱き締めた。寂しさを紛らわせたくて、着替えながら他愛ない話題を振る。

「やすもゼルダ買うんだよね」

「そう、まゆがやってるの見てたら、子供の頃やってたゼルダ熱が再燃したから」

そんな話をしながら身支度を整え、ホテルを出て車に乗る。運転中も歩いている時も、いつも手を繋いで来るのは彼から。今日も左手が助手席に乗る私の右手を取り握りしめた。

「時間、あっという間に過ぎちゃうな」

「うん、でも会えたから元気出た」

「俺も」

そんな会話の後、彼が握った私の手を持ち上げ甲にキスした。ダイキと違い、彼はどこまでも優しい。普段のメッセージにも気遣いが溢れている。三ヶ月一度も喧嘩も無い。やっぱり彼が大好きだと、手の甲に残る唇の感触を思い出しながら今も実感する。

いつもの待ち合わせ場所に着き、彼がお別れのキスをして来る。思わず抱き着き「帰したくないな」と呟くと「俺も帰りたくない」と返った。今日抱かれた体温を忘れてしまわないうちに、また会いたい。でも私達は家が遠い上、お互いに家庭も仕事もある。次が保証されていない関係だ。だからこそ一回会うのが貴重で、その時間が尚更楽しくもある。

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