用法用量に注意

どうにか忙しかった仕事を納めて、年末年始の長期休暇が始まった。

シュウは掃除や忘年会、私は趣味仲間と集まって連日呑み会。

シュウとなかなかデートができないので、せっかく買った服があまり着れなくて勿体ないかなー…と呑み会に着ていったら、｢あれっ？なみちゃん、雰囲気違うね！｣｢いいじゃん！｣と男女問わず褒めてくれて｢ほんとー？やったー！｣って素直に喜んだ。
クリスマスに仲間で集まった時にも会ったコウキくんが｢服装ですごい変わるなぁ…なみちゃんの事、女の子って意識したことなかったけど…そういう格好してると女の子なんだなーって意識しちゃうよなー｣って言うから｢ずーっと女の子なんですけど｣って笑う。
コウキくんは私より2つくらい若いけど同年代、40代後半の私に｢女の子｣なんて言ってくれるだけ、全然優しいなーと思う。
後から遅れてきた、時々集まりに顔を出すケイタくんに手を振ると｢なみちゃん？！｣と目を丸めた。
そんなにいつもと違うんだな、って可笑しくなってくる。
ケイタくんはいつもニコニコしててかわいい雰囲気の子で、歳は私より3つくらい若い。
時々しか会わないけど、居ればよく横に行って喋ったりする。
ケイタくんが隣に来て、｢なみちゃん、好きな人できたの？｣って聞いてきた。
｢何で？｣
｢いや、なんか…女の子っぽい格好するようになったなぁ…って｣
｢んー、まぁ、気分転換っていうか…なんかそんなモードなだけ｣
好きな人ができたのは図星だけど、色々聞かれてもなー…と濁した。
｢あっ、そう、明日の集まり、ケイタくんいるって聞いたよー！私も行くからね！｣
｢え、マジ？｣
｢なんだよ、嫌？笑｣
｢ううん、嬉しい｣
デレーって笑うケイタくんに気づいてたけど、違う違うこの子は元々いつもニコニコなだけ…と自分に言い聞かせる。
元々、ケイタくんの事は男として見てるわけじゃないけど弟みたいで可愛くて好きだから、あんまり懐かれるとグラつきそうで自信が無い…
その後も｢なみちゃん、可愛くなった｣｢急に女の子っぽくなるからドキドキする｣って何回も言うから、違う違うこの子はいつも酔っ払いすぎなんだから戯言でしかない…と自分に言い聞かせなきゃいけなかった。

｢こないだの服着てったら、可愛くなったって褒められたよ｣ってシュウに報告した。
｢そうか♡でも、なんもないだろうな…褒めてくれた人と｣ってすぐに返ってきて、その嗅覚にギクッとする。
｢何もないよ、シュウだけ♡｣
嘘ではない、何もない。
怖いくらい、可愛い可愛い言われただけ…
｢うん、嫌だし、信じてるからな｣
シュウの打ってくる釘がポロンと抜け落ちたりしないように、明日は呑みすぎに気をつけなきゃ…

次の日の集まりも、デートで着ようと思ってた別の服で参加した。
前日、みんなが褒めてくれたから、客観的に見てどうか反応を見たかったから。
ちょっと肩が出るデザインだし、昨日のケイタくんがチラッとよぎって｢やめようかな……｣と思ったけど、ケイタくんは昨日知らないうちに消えてたから多分すごく酔っ払って私の事なんか記憶にないような気がしたから、まぁいっか！と着ていった。
女子の仲間達から｢えー！意外！でも似合うね、凄くいい！｣と言ってもらえて｢ほんとー？良かった！まだ人前で着たことなかったんだー｣ってホッとしたんだけど、男性で親しい人はみんな｢触りたくなるやつ着てるー｣って手伸ばしてくるから｢お触り禁止～｣てあしらいながら、デート服としては間違ってないけどそれ以外で着るとこんなオバサンでも触られる可能性があるのかー、と驚いた。
いや、オバサンだから触っても許される空気があるのかもしれない……特に私なんか、酔っ払ってふわふわしてるし。
やってきたケイタくんは私を見るなり｢なんだよぉ、昨日から急に女の子になって現れるから動揺すんじゃんかよー｣ってジタバタして。
覚えてんのかよ昨日の私を……と読み違えたことに少し動揺しつつ｢ずーっと女の子だっつーの｣って笑う。
｢かわいい、なみちゃん…｣
見惚れるような顔でケイタくんに言われると、お前の方がかわいいよ…ってグラグラしてくる……
ダメダメ私にはシュウが居るんだから、と頭で唱えるけど、そもそも浮気だろー？シュウだって最近あんまり会えないじゃんかよー、という悪魔の囁きが聞こえてくるようで、やめろやめろ絶対ダメ友達なんだから！！と頭の中で耳を塞ぐ。
｢ありがと♡はい、座った座った、呑もーぜ｣
あしらうように言うと、ちょうどケイタくんが他の子に捕まったから、私もわざと別の人の横にいって呑んだ。
随分と呑み進めて、ふとケイタくんが他の男性と話してるのを見たら、何か深い話をしてたみたいで見たことない真面目な顔してて。
あれ、真面目な顔してるとカッコイイんだな……って思っちゃう自分が居て。
ヤバイヤバイ、酔ってきてるしこれはヤバイ、ケイタくんに寄ってかないようにしなきゃ…と思ってたのに、先に帰るねーと何人か抜けていった時にスッと隣に座られちゃった……
｢なみちゃん、女の子になったらすっごい可愛い……どうしよう｣
｢性転換したみたいに言うなよ。笑｣
｢こんな服着てくるし…触られなかった？｣
ちょん、と肩に触れてくる。
｢触られた｣
｢誰に？｣
｢ゆーちゃんと、アキラ｣
｢俺だって触りたいのにー！｣
｢なんだよそれ。笑｣
｢かわいいんだもん｣
目見て言ってくるからドキッとして
｢……あんま言うなって、照れるじゃん｣
相手にしないようにしてたのに……
｢かわいいから、言いたくなる｣
｢…ほんと？｣
｢あー、もう……かわいい♡｣
うー、って身悶えてるケイタくん。
何がそんなにいいんだろう、わからないけど…
｢ここからもっと一緒に呑みたい｣
｢うん、いーよ、いっぱい呑も♡｣
一緒にお酒呑むのは大歓迎だし、ニコってしたら、デレデレの顔になるケイタくん。
｢うー、かわいいな、いっぱい呑もうね♡｣
次の瞬間、向こうから｢ケイター！｣と別の仲間からお呼びがかかって。
私にもまた違う仲間から｢次の店行くけど来る？｣って誘いがきた。
ケイタくんと2人きりで呑むと酔った勢いでエッチな事しちゃいそうだから｢行く｣と答えた。
ケイタくんが戻ってきて、｢俺、先輩達と合流になっちゃった……なみちゃんはみんなと行く？｣
｢うん、みんなと行く……ケイタくんは、向こう行っちゃうの？｣
みんなで呑みたいなーって意味で言ったんだけど、｢2人になりたい｣って意味に聞こえたみたいで｢あー、もうかわいい、行きたくないけどー｣って周りを気にする様子もなく流れるように結構濃厚にキスしてきて｢バイバイ｣って行っちゃった。
幸い、みんなこっちを見てなかったみたいで、誰も気にする様子もなかったけど……
だいぶ酔ってたからな……
記憶を無くしちゃう事もよくある子だし、｢今度こそ、全部忘れてますように…｣と祈りながら、二次会に移動した。

ギャップ萌え、というか……
意外性を見せることってすごく効果はあるけど、意外な人に効いてしまったりもするんだな……という体験だった。