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at last
まゆ
公開日|2024.01.20
更新日|2024.01.22
会えない日々が続き時折LINEの会話も私がそっけなくなったりして、このままいくと付き合い自体も危うくなるかもと過る。「早く会いたい」という彼からのメッセージを見ながら「会いに来ないのは誰?」と思わず声に出して悪態を付いてしまった。このまま会わなくなって自然消滅になると決め付けて『やすを忘れる為に新しい趣味を持とうかな』など思ったりも。ただ思ったところで、ここまで好きになってしまった気持ちはなかなか簡単には冷めない。泣きたくないけど、やすと別れたらきっと年単位泣く。それでもこのまま会えない日が続いたら別れも覚悟しなきゃ。
仕事中もそんな事ばかり考えて気持ちが沈む中「今夜会える?」というLINEが来た。会いたい気持ちと裏腹に放っておかれた事が癪で、つい『会えない』と言ってしまおうか。と過るも、ここで素直にならないと本当に終わりになってしまうかもという不安も沸いて、結局「会える」と返信した。放っておかれたわけじゃない、実際は異動後で落ち着かなかったりあちらの子供の発熱など理由がある。あまり意固地になっても仕方ないと思いながら退社し、帰宅したらすぐにシャワーを浴びピアスを付け替え化粧を直し、出社前に付けた香水をもう一度振り直す。
一ヶ月半ぶりに会う康裕は、会社帰りに会う時は今まで障害者施設のロゴの入ったユニフォームだったが、異動後の今は襟付きシャツにVネックセーターという服装。少し畏まったその姿もかっこいいと感じ、助手席に乗り込みながらつくづく自分はこの人が好きなんだと実感した。「仕事の環境は慣れた?」LINEで話は聞いていたが異動後に実際に話すのは初めてなのでそう聞くと「前の異常な仕事量から比べたらかなりマシだよ」と返る。私の手を取ったやすに「一番大変な頃まゆに会ったんだ、あのまま一人で頑張るだけなら入院してたよ。居てくれたからそうならずに済んだと思ってる」そう言われ手の甲にキスされると、会えなかった期間の寂しさも何もかもがどうでも良くなった。
甲にキスした時手首に付けた香水が香ったらしく「良い匂い、でもいつもと違うやつ?」と聞かれた。やすの見た目は優男とは真逆で過剰に自分を飾らない爽やかなスポーツマンタイプ。どちらかというと言動も甘い言葉は無いが、代わりに彼は私の変化によく気付く。それこそ旦那などは若い頃から私の髪型がどうなろうが誉めた事など一度も無かったが、やすは普通なら気付かない程度に髪を切っても染めても気付き、少し珍しいデザインの指輪やピアスも指摘する。今日の香水はいつものレール・デュ・サボンではなくIGNISを使っていたが、この二つは私の好みだけあって香りの傾向が似ている。甘い花系とシトラス系とかではなくどちらもシトラス系なので、使い慣れていないと別の香りと判別しにくい。けれどやすは違いに気付いたらしい。
見た目はかっこいいけれどどちらかといえば無骨な印象なのに、繊細な香りの違いを感じてくれる。こんなギャップが彼にはたまにあり、私はそれにも弱い。「よく分かったね」など話すうち、車がホテルに着いた。私は部屋に入ってバッグをおろし、小さな紙袋を取り出しやすに差し出した。「早く渡しておかないと、次いつ会えるか分からないから」と言い彼に渡したのは、バレンタイン用に用意しておいたチョコレート。運転する事を考慮しアルコール不使用の、ディボアというフランスのもの。「え?!これバレンタイン?うわ嬉しい!」と喜ぶやすに「持ち帰らず、ここで食べて箱も袋もここで捨てて。その為に食べきれる個数の詰め合わせにしてあるから」そう頼む。「ありがとう!俺チョコレート凄い好きなんだ」と言って頬張る姿は、やっぱり可愛い。一緒に食べようと言う彼に、せっかくあげたものだし一つ一つ味が違うから食べて、と返して私は食べる様子を眺めた。
男をかっこいいだとか愛してるだとか素敵だとか思う事は多々あるが、中でも男に『かわいい』と一度でも感じたら、その男を簡単には嫌いになれない。
インスタグラムの中で見掛けた言葉が本当なのだとしたら、私はやすにかっこいいとも愛してるとも素敵だとも感じるが、かわいいとも感じる。だから簡単に嫌えないのだろう。
半分食べた彼が、ベッドの縁に座り頬杖を付きながら会話している私の背後に回り抱き締めた。バックハグからのキスの後「味する?」と聞くやすに「おいしい」と返す。そのまま押し倒され脱がされ、胸を吸われた。最近では「付けていい?」とも聞かずに首や胸元など好きな場所に吸い付きキスマークを付ける。だけでなく、気持ち良さの中にたまに鋭い痛みが走り…舐めたり吸うばかりでなく、噛み付いても来る。ただ私はそうされるのが大好きなので、咎めるどころか喜んで受け入れている。決して痛みが快感などではない、痛いものは痛い。だが私の場合は好いた男にされる事ならばかなりの事が受け入れられる。喜んで欲しいから出来うる限り自分自身も一緒に楽しもうとする。いつか過去に寝た男には「まゆのその男に従順なとこも充分M気質だよ」と指摘された。
痕を付けながら上半身を愛撫されたら、私が上になる69の体勢になった。いつやっても誰が相手でも、この体勢は恥ずかしくて今いち集中出来ない。が、断れば興を削ぐので黙って受け入れている。舌も指も使って濡らされたら、仰向けにさせられ挿入。付き合って5ヶ月になるが、未だにサイズが大きいやすのものは挿入時少し痛い。メリメリと割って入るような感覚は初めて寝た時と同じ。だがすぐに馴染み、力強いピストンに喘ぐ。この日は途中で枕を私の腰の下に敷き、改めて挿入し直した。腰が高い位置にある体勢で正常位で挿入されると、膣内の上側をやすの先端が擦る。Gスポットへの刺激が強まり、私はすぐに達した。少し後あちらが「イキそう」と小さく漏らしたので、私は指で彼の乳首を愛撫した。やすは特に乳首を刺激するのを好むが、いつもは彼が「舐めて」や「触って」と誘導する。この日は自分が予期していない時に私から不意に、しかも絶頂が近い時にされたからか「あー、ダメ、そんなんされたらすぐイッちゃうよ」と慌てるように笑った。乳首を刺激しながら「中に頂戴」と囁くと、ほどなくして彼が私に覆い被さり膣内に射精する。
出してもしばらくは挿入したまま私の上に乗る彼が可愛くて、いつもそっと抱き締める。ツンツンした髪が顔に当たる、その感触すら愛おしい。やがて体を離した彼が流れ出る精液をティッシュで拭いてくれたが「シーツ冷たい」と言った。私は挿入中に潮吹きしていた。やだ、と笑いながら彼の隣に寝そべりしばし話す。その後は浴槽にお湯をためて二人で一緒に入ったが、彼は会うと必ず「幸せ」と言ってくれる。今日は浴槽で抱き合いながら。「好き」と言われた事も少ないし、まして愛してるなどは一度も言わない。でも「幸せ」とは言われる。それは短くシンプルな言葉だけど、ある意味愛してるよりも嬉しい。抱き締め返し「私も」と答えた。
浴室から出たらまたベッドに寝転び互いの仕事の話などしていたが、彼が「あちこち飛び回る仕事からデスクワークになったら、楽だけど腰が痛むようになったよ」と言い出した。「マッサージしてあげるよ」と言い腰を指圧すると「うわ、凄い気持ち良い」と喜んだ。しばし指圧すると「次は俺がまゆをマッサージしてあげる」と言い私をうつ伏せにし揉んでくれていたが、やがて「勃っちゃった、入れていい?」と言いそのまま二回目が始まった。「マッサージは?(笑」「ごめん、体触ってたら大きくなっちゃったんだもん(笑」そんな事を言い笑い合っていたが、やがて快感が増し私は喘ぎ声を漏らし彼の動きは激しくなる。
バックの体勢から仰向けにされ、再び挿入すると彼が私の首に吸い付いた。そこはさすがにやめてよ!と言いたくなるような髪で隠せない場所を吸われたが、同時に嬉しい。明日以降少なくとも3、4日は彼の唇の痕が体にあるから寂しくない。二度目の射精は口内へ、やっぱりやすの精液はかなり味が濃い。旦那のものは飲み込むどころか口に入れておきたくもないのでティッシュが遠くても自分の手に吐き出していたが、やすのものはいくらでも飲める。
また軽くシャワーを浴び身なりを整えたら、たった3時間の逢瀬はもうお仕舞い。また次はいつ会えるか、彼次第で分からない日々が始まる。ダイキの時は会うのが月一回の時もザラだったが、改めて思い出しても寂しいとは感じなかった。やすの場合は一ヶ月会えない期間があるとおかしくなりそうになる。それだけやっぱり、私はやすが好きなのだとも実感する。
「またね」名残惜しいが降り際に言うと、私の腕を掴み彼がキスして来た。降りたくない、ずっと一緒に居たい。そんな気持ちを押し殺して「気を付けて帰って」と言いながら車を降りて手を振り見送った。抱かれている最中は、この時間が永遠に続けばいいのにといつも思うし、別れ際は帰らないで欲しいとも本気で思う。だけど、それでも尚私はやすの妻になりたいとはやっぱり思わない。たまに会うからこそ新鮮な気持ちが長続きするし、嫌な面をあまり見せなくて済む。というのもいつも思う。私が望むのは、この関係がずっと続く事。もし老齢になって入院などになったら、それを以て関係を終わりにしたい。
「長い間支えになってくれてありがとう、自分はこのまま命が尽きるかも知れないけど、また来世会おう」
と、無意識寝たきりになる前にどちらかがどちらかにメッセージを送信して終わるのが、唯一諦めがつくラストだ。だからそうなるまでは、幾つになっても私をどうか離さないで。
会う前は「別れたらそれまでだ」なんて思っていたが、会った後はそんな事を考えながら夜道を歩いていた。
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