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Aphrodite
まゆ
公開日|2024.02.13
更新日|2024.02.13
アフロディーテ、通称ヴィーナス。男性器に付いた泡から生まれた彼女は成長後、ヘパイストスという醜男で母親を罠に嵌めるなど性格も悪い神と結婚させられる。ヘパイストスに不満だらけのアフロディーテは浮気に走る。この世にも見た目の美醜は関係無くアフロディーテはたくさん居て、私もその一人。
地味でおよそ男から相手になどされなかった私を魅力的だと誉めて何度も抱いて、女性としての自信を取り戻させてくれたのはダイキだ。ただ彼はサイコパスでありまともじゃない、勝手な振る舞いに疲れて私から一方的に別れを切り出して7ヶ月。その7ヶ月の間、彼は一度も諦めず私に連絡して来た。もうすぐ付き合った日数より一方的に復縁を迫る日数の方が長さが上回るくらい。どんなに嫌がろうが、ダイキは私に「一生好きだ」「まだ愛してる」と繰り返す。もう何回目になるか分からない「一度だけでいい、会って欲しい」というLINEに、いつもならすぐに「嫌です」と返すのに、この日はすぐにはそう送らなかった。ダイキと別れ康弘と付き合うようになり半年、どちらとの付き合いが楽しいですか?と聞かれれば圧倒的にやすだが、彼は彼で小さな不満もあったり。
彼は滅多に好意を口にしない。会っている最中は勿論LINEのやりとりで私から好きだよと送っても「嬉しい😊」とは返るが好きとは言わない。それ以外にも小さな不満が溜まりはしていてある日私が素っ気なくなる、あちらが慌てて会いたいと提案する。など喧嘩にまでは発展しないぶつかりはあった。ダイキから何十回目かの会いたいというLINEが来る直前も、そんなやりとりをやすとしており気分が沈んでいた。そこにダイキからの「セックスしなくていい、ただ会うだけでいいんだ」という言葉に今回は揺らいでしまう。嘘か真か分からない、でもダイキは「まゆから別れを言われてから、他の誰にも行けない。誰も抱きたくないからまゆとのセックスを思い出したり、まゆがインスタに載せてる写真を見て一人でしてる」などと言っている。
7ヶ月いわばお預けされていた私を今のダイキに与えたら、彼はどれ程興奮するのだろう…。
旦那が在りながら、付き合う男が居ながら、なお別れた男にそんな事が浮かぶ私は最低だ。だが不満を持たないよう扱ってくれればいいものを、誰も彼も私の扱いが半端なのも事実。この日ふと過った『こんなに求めるダイキに自分を与え、興奮する様を見てみたい』という考えは消えず、翌日になり私はダイキに「わかった、一度だけ会おう」と返信した。すぐに「明後日の祝日はどう?」と返り、それにも「大丈夫、いつもの時間に駅に行くね」と返した。
ダイキと別れたら、もう二度と降りる事は無いだろう。そう思っていた駅の改札を出て懐かしい駅ナカに入るルミネの入り口を眺める。付き合っていた頃は、やるだけやって食事もお茶すらもしようとしないダイキから放された後、よくSABONやロクシタン、成城石井で買い物して帰った。付き合い始めはセックス以外何もしないダイキのそんな所が嫌だったが、半年も経過するとそれが私も普通になり、一人になった後の買い物が気分転換にすらなっていた。
そんな事を思い出しながら発券機の側に立っていると、ダイキが歩いてきた。「来てくれてありがとう」そう言うなりすぐに手を繋いできて「嬉しい」とも。ダイキは表情に凄く出やすく、機嫌が良い悪いが分かりやすい。今日私に見せる顔は、初めて会った時と同じ顔。心底喜んでくれているのが分かる。数ヶ月ぶりの再会なので気まずさが伴うかと思ったがそこは元の鞘「昨日雪予報が出てたけど、嘘じゃんね」「凄い晴れてるもん」など他愛ない話をしながら手を繋いで自然に歩けた。「無理にセックスしなくていいよ、会えただけで嬉しいから。飯でも行く?」そう言うダイキが立ち止まる。まっすぐ行けば繁華街、右に行けばラブホテルがある道でそう聞かれ、私は「いつも通り、行くのはこっちの道でいいよ」と右を指した。
「これ…このキス、これが本当に好きだったんだ。小さく声が出る所とか舌の感触とか」ホテルの部屋に入るなりキスされ、荒い息でダイキが言う。押し倒され服を脱がされ、全裸になった私を眺めるとダイキは「このおっぱいも、体全体も本当に本当に好きだったんだ」そう言い「一番好きなのは顔、まゆは美人だよ」と頬にキスして来た。私が美人なのではなくダイキの好みというだけだが、一切言わないやすと違いダイキは誉める言葉も好意も、いつも素直に言ってくれる。特に今日は7ヶ月拒否を続けた末に会っているから尚更。舌で愛撫しながら「美味しい、この味も大好きなんだ」「愛してる」「本当に幸せ」と誉め千切る。私も私で久しぶりに受けるダイキの愛撫に感じ潮吹きまでしてしまい、ダイキを余計に喜ばせた。性格の相性は残念だけど最悪、でも体の相性はやっぱり誰よりも良い。悔しいが心底そう感じる。挿入しながらも何度もキスされ耳元で「好きだよ」と囁かれるセックスは感じないはずがなく、私は挿入でも絶頂しダイキは思い切り私の中に射精した。
いつもなら出せばすぐにタバコを吸い一眠り、満たされたら相手はお構い無しだったダイキだが、この日は出した後は抱き締めたまま会話し勃てば二回目、終わればバスタブにお湯をためて一緒に入りたがるなど終始私を離さなかった。「復縁したい、だめ?」身支度をしながらそう聞かれ「どうせまた付き合ったらぶつかるよ」と返す。いつもなら路地裏から人の多い駅前に来たら繋いでいた手を自分から離しさっさと手を振って去って行ったので、この日もそうなると思い私から手を離した。が、ダイキは再び私の手を取り「離さなくていい、このままで」と言う。付き合っていた頃にこそそれを言え、そう返したくもなったが黙って従うと「もう少し一緒に居られない?スタバだけでいいから」とせがまれる。「どうしちゃったの?いつもは済んだらすぐにバイバイしてたのに」皮肉を言えばすぐに「皮肉るなよ!腹立つな!」と返す所を今日は「お願い、もう少し居たいんだ。スタバじゃなかったら他の店でもいいから」と、まるで子供のようにねだる。根負けし目の前のスタバに入り飲み物を頼み、飲み終えてもなおダイキは一緒に居たがった。「快速来るの50分か…あと15分あるなら、せめて喫煙所、付き合って」と言われ、思わず小さく笑ってしまう。「付き合ってる時、帰る前いつもこの喫煙所でまゆに電話してたんだ。一本吸い終わるまで話に付き合って貰って、じゃあねって電話切ってからバス停に歩き出すの」そんな事を話すダイキの声が、段々小さくなる。
「優しくなくてごめん、離れられても仕方ない。でも好きなんだ、本気で」
そう言うダイキの声を聞きながら、隙間無く密集する東京のビル達を眺める。だからって復縁まではしたくない、今日はたまたま私も会う気になっただけ。でもそれをはっきり言うのは憚られた。仕方なく微笑みながら「ありがとう」とだけ返した。ダイキはその後も離れたがらず、結局私が乗る改札まで付いて来た。私から復縁を承知する言葉が欲しかったのだろうけど、はっきり言わないので最後は諦めたらしい。何も言わない代わりに、改札を通る前腕を引っ張られキスされた。人の多く行き交う東京の駅の中、突然のキスに私も驚いたが偶然見た後ろにいた老婦人も驚いていた。手を振り別れ、電車に乗りしばらくすると「今日は会ってくれてありがとう、やっぱりまゆは最高」と書かれたLINEが届いた。
やすのようにセックスなしでもデートを希望してくれて優しくて、ダイキのように好意をちゃんと口に出してくれる。2人を女神転生の悪魔合体の機械に入れ、出来上がった男ならきっと私の理想何もかもが詰まった完璧な男なのに。
ダイキから来た文面を見ながらそんな事を考えて、ふと顔を上げると改札で私達のキスに驚いていた老婦人が斜め前に座っているのに気付いた。不可抗力とはいえ相手を咎めず受け入れた私も同罪、きっとはしたないと思われているはず。気まずい中ダイキに「私も楽しかったよ」と返すと目を瞑り寝た振りをした。
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