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凪
なみ 女性
公開日|2024.02.15
更新日|2024.02.15
丸一日、シュウからLINEが来なかったのは初めてだった。
できればケンカはしたくないけど……私が我慢すればいい、というのは少し違う気がした。
お互いに本来のパートナーから奪い取りたいわけではないけど、セフレだと完全に割り切っているというわけでもない、都合のいい関係。
だからこそ、会っている時はお互いが心から楽しめなかったら、わざわざ不倫してまで会う意味が無い。
待っていたけど、シュウからの返事はない。
翌日はシュウの誕生日。
プレゼントを選ぶのはあまり得意ではないし……不倫という関係だから形に残るものは贈らない方がいい気もして、特に何も用意はしていない。
そのかわりに有休をとった平日に、シュウの都合がつけば一緒に呑みに行ってお祝いでご馳走するつもりだった。
このままシュウの気持ちがよくわからず、誕生日のお祝いもできないまま、冷戦状態で過ごすのは嫌で……
「ちょっとだけ、話せる?無理なら電話でも」とLINEを送った。
2人で会う時には、暗黙の了解でシュウの住む町は避けている。
シュウの身近な人に見られないように。
嫌がるだろうとは思ったけど、今回は敢えてシュウの住む町にあるコンビニに車を走らせた。
家の近くまで来ているとわかれば、無視はできないだろうと思ったから。
「ここに居るから、来れたら来て」
場所と共にそう送ったら、すぐに返信が来た。
「まだ仕事終わらないし、待たせるの悪いし、こっちまで来てもらったのに申し訳ないけど、改めて時間とれるようにするから……
まぁ、家の近所っていうのもあるけど……
そんなすぐに簡単には離れられないし
ちゃんと会って話したいから」
文面から、今日は会えないし、今のところシュウとしては終わるつもりが無さそうだな、ということはわかった。
「わかった、じゃあまた後日ね」
そう送って帰宅した。
シュウからは数時間後、
「うん、おやすみ」
と入ってきた。
まだきちんと話していないのに、いつもと変わらないようすで拍子抜けする。
私も怒っているというよりは、会えない寂しさとシュウの気持ちがよくわからない不安が溜まっていたわけで、無視する気にはならなくて
「寒いからあったかくして寝てね、おやすみ」
そう送って、眠りについた。
翌朝もいつも通り「おはよう」と連絡がきて、私もいつも通りに「おはよ」と返す。
お昼も「お昼、出遅れた」といつもより随分遅い時間に連絡があったので
「遅くなったね
シュウ、お誕生日だね
おめでとう♡
午後からもがんばろーね 」
と送ったら、夜になって
「ありがとう!
仕事終わったよー」
と返事が来た。
それからも、毎日いつもとほとんど変わらないやりとりが続いた。
私が怒っているようすもないからか、シュウから「会おう」と言い出すこともないまま、毎日が過ぎていく。
私も別に会えないことが苦しい感覚ではなくて、不思議と「まぁいいか」という気持ちだった。
溜まっていた気持ちを吐き出してスッキリしたのかもしれない。
「なみちゃん、土曜日に予定がなかったら久しぶりに呑まない?夕方には用事あるから帰らなきゃだけど」
趣味仲間の女性、ユキちゃんからLINEがきた。
ユキちゃんは同い歳、お酒大好きな主婦。
なかなかお互いの予定が合わなくて年に数回しか会えないのだが、ちょうど予定もなかったから「いいよ、呑もう!」と昼前から待ち合わせて2軒ハシゴして呑んだ。
ユキちゃんと別れた後、急激に酔いが回ってきた私はフワフワしながらシュウに「友達と昼呑みしてた、バイバイして1人でまだ呑んでるけど酔ってきた、帰りたくない」とLINEした。
「帰り、大丈夫か?」と返事がきた。
「このままじゃ帰れないから、知り合いのBARに行く」と答えたら「えー、しんどくないのか?帰り、気をつけろよ」と返ってきた。
知り合いのBARで「甘いヤツ出して」と頼んで、スローペースで呑みつつ、夜中まで遊んで帰った。
翌朝、ユキちゃんから写真が送られてきた。
居酒屋でユキちゃんが撮った、向かいの席の私の姿。
シュウにその写真を添えて「昨日の私」と送ったら、数時間後に怒ってる顔文字が送られてきた。
昨日おろしたニットワンピが1枚で着ると露出が結構あるから黒のシースルーインナーを重ねていたのだが……それでも胸の谷間がうっすら透けて見える。
どうやら露出に関しては、かなりヤキモキするらしい。
一緒に呑んでるのが男かもしれない、とも思ってそう……
「友達は女の子だから心配しないでね?この服はおろしたてだけど、もうデートでしか着ない」
そう送ったら「うん♡心配だし着ちゃダメ」って返事がきた。
こんな年増の不美人、そんな目で見る人なんか居ないのに。
揉めたばかりだし、私に気がないわけじゃないと示しておきたいのかな……と俯瞰で見る自分も勿論いるけど、可愛いヤキモチに笑ってしまう。
頻繁に会える関係だったら、ちょっと重くなるかもしれないけど……なかなか会えない関係だからか、苦手な束縛や嫉妬も、これくらいなら愛情と受け止められる。
これはもしかしたらシュウの巧みな罠なのかもしれないけど……それならば、できるだけ長い間、私にこの甘い罠をかけ続けてほしいとも思うし、できることならもう私に「やめよっか」なんて言わせないでほしい。
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