急接近

シュウに最後のLINEを送った翌日、ケイタくんから「昨日はありがとう!呑み会、楽しかったな」とSNS経由でDMがきた。
呑み会でケイタくんが忘れ物をしていたからDMしたら「明日取りに行くから、店にそのまま預けといて」と返事があった、そのお礼の連絡だ。
ケイタくんは私より先に元カノと一緒に消えていったから、私が途中抜けしたことを知らない。

「楽しかったね、私も途中抜けしちゃったけど」
「珍しいな」
「不倫が終わっちゃってね……動揺して。笑」
「え!!!マジか」
「転勤でね、遠くに行っちゃうんだって」
「そうか……俺も元カノをホテルに連れ込もうと思ったけど失敗した。笑」
「ダメだったのかよ!笑
うまいことやったと思ってた」

元カノがケイタくんに甘えてベタベタしているのを見ていたから、元鞘かぁ、と思っていた。

「なみちゃんは、今日も呑み会?」
「うん、家に居ても病むしね。笑」
「流石だなー」
「泣きすぎて、まぶた腫れてるから濃いメイクしていくよ。笑」
「おー、見たかったな」


ケイタくんが来ないのは少し残念だったけど、来たら絶対に甘えちゃうし、良かったかもしれない。

支度をして呑み会に向かったけど、どうもテンションが上がりきらず。
静かに呑んでいたら、年に1回くらいしか顔を合わせない男の子が乾杯しにきた。
いつも作業着姿でやってくる、目鼻立ちがハッキリした若い男の子。
「あー、来てたんだ!久しぶりだね」
いつ会ってもベロベロに酔っぱらってるヤンチャそうな子なんだけど、会うと「今日も騒ごうな!」とニコニコ乾杯しにくる、かわいい奴。
何回か名前を聞いたけど会わなすぎてうろ覚えで……たしか、ユウキだったような気がする……違ったかな。
自信がなくて名前を呼べないまんま、喋ってて。
また別の人が来たからそっちに話に行って、戻ってきたら、ユウキ(仮)は、壁にもたれて、うつらうつらしていた。
「おーい、眠いの?寝るの早くない?」
「んー」
隣に座って「ねぇ、名前なんだっけ」と聞いてみる。
「えー?…ユウキ」
「あ、やっぱりユウキであってたんだ。自信なくて」
眠そうな顔で、じーっとこっち見てるユウキ。
「ユウキ、かわいい顔してるよね」
言われ慣れてるんだろうな、嫌そうな顔をするから笑ってしまう。
「ごめんごめん、寝てていいよ」
ポンポン、と手に触れたら、柔らかい手でびっくりした。
「えっ、手、柔らかいね」
思わず手を繋いでしまう。
「わ、細いのに柔らかい、気持ちいい」
ハッと我に返る。
怒るかな……と思ったら、手を握り返してきた。
眠いから甘えてるのかな。
これなら嫌がるかな、って恋人繋ぎしてみる。
また握り返してきた。
「ユウキ、あんまり手使わない仕事?」
「……手使うよ、すごい」
「だよね?その割に柔らかいし、きれいな手」
そう言うと、私の手をまじまじ見つめる。
「デカいでしょ、私の手」
「……デカくないよ、俺と変わらない」
「女にしては手が大きいんだよ、私」
「……きれいな手だな」
私の手を撫でながらそう言うユウキ。
ユウキのほうがうんと若いし、スベスベの手なのに。
「えー、本当?ありがとう」
また手を繋いでくる。
ユウキがこんなふうに誰かに甘えてる姿は見たことがなかったから、意外だった。
私と変わらない大きさの、柔らかくて優しい手は少しだけシュウの手に似ていて。
繋いでいると安心して、眠くなってくる。
「ヤバい、くっついてると気持ちよくて眠くなるね」
そう笑うと、ユウキもニコッと笑って「うん、気持ちいいな」と繋いだ手を優しく握った。
酔った頭でシュウと一緒にいた時と混同してしまって、「ユウキ、抱っこしてー」と抱きついた。
「抱っこ?俺、運べねぇよ」
「ばか、違うよ、ギューってしてくれって言ってんの」
ユウキの体は細くてシュウとは全然違うし、なぜだかハグがやたらにぎこちなくて、「んー、なんかしっくりこないな…」と勝手な事を言いながら離れたけど、何故かまたユウキは手を繋いできた。
肩にもたれかかったら、ユウキも私に寄りかかってくる。
髪に顔を寄せて、「いい匂いだな」って言う。
「そう?」
「うん」
まるでふたりっきりの部屋の中のように甘えてくるユウキは多分、ここがどこだかわからなくなってる気がした。
「……大丈夫?もう帰る?」
そう聞いてみると「……まだ帰らないけど」って答えた後、「大丈夫か?」と逆に聞いてきた。
ユウキには年1くらいしか会わないし、何があったのかなんて一切話してないけど、私が大丈夫じゃないのはバレバレだったらしい。
……こんなにユウキにくっつく時点で、おかしいのは明白か。
「……大丈夫だけど、大丈夫じゃない。笑」
思わずそう答えたら、「俺、見捨てて帰るぞ」って笑うから「いいよ、帰れよ」って私も笑う。
タバコくれよ、って言うから1本あげて、一緒に吸ってたら急に涙が出てきて。
ユウキが「どうした?」て聞くから、「わかんない」って笑うけど、涙が止まらなくて。
ユウキは黙ったまんま横に居てくれて、泣き止んだ頃に「大丈夫か?」ってまた聞いてきた。
「…うん、大丈夫」
「本当に?大丈夫か?」
「だーいじょーぶっ!」
ニッ、と笑ってみせると「帰るからな?俺」って目を見てくるユウキ。
今まで年1程度に会った時も、ちょこちょこ喋りはしたけどすごく仲が良かったわけじゃないのに。
この日は特別話が盛り上がったわけでもないのに、何故か、そばに居たいな、と思った。
帰ってほしくなくて「えー、腹減らない?」と聞いてみたら「腹ー?うーん」と濁す。
お腹は特にすいていないらしい。
向こうからラーメン行く人ー!という声がしたから「はい!行く!」と答えると、ユウキは「帰る」って立ち上がった。
「帰んないでよー、一緒に行こうよ」って言ったけど、外に出ていっちゃって。
諦めて移動の身支度をしていたら、5分くらいして急にユウキが戻ってきた。
「あれ、おかえり。忘れ物?」
そう尋ねたけど、返答はなくて。
私の近くをウロウロ、ウロウロ。
「…どうしたの」
急に私の手を掴むと、店の外のベンチに引っ張って連れていかれた。
先に座ったユウキは「早く」って私に促す。
「…なんだよ、くっつきたいのかー」
からかうように言うと、照れくさそうに「あー……うん」って返事をした。
可愛くて吹き出しそうになるのを堪える。
「しょーがねーなぁ」
隣に座ると、すぐに手を握ってくる。
「……ねぇ、これここでやってると寒くない?」
「まぁ、そうだな」
「じゃあ一緒にラーメン行こうよ」
「えー……」
「それは嫌なのかよ!笑」
「ほら、2人ともラーメン行くよー」
みんなが呼びに来て、渋りながらも私から離れたがらないユウキを「ほら、私と一緒だからいいでしょ!ラーメン1杯食えないなら半分こしよ!」と引っ張って歩いた。
店に着いて、4人がけのテーブルに案内されたけど、なぜかユウキは私の隣には座らずに斜め前に座った。
みんなが見ている前でくっつくのは照れくさくなったのかもしれない。
一緒のテーブルについたリョウくんが「ユウキ、なみちゃんに懐いてるな」と言うと「持って帰る」と言い出して、みんなは爆笑。
私は呑んでいたハイボールを吹き出しそうになった。
「ユウキ、いくつだっけ」
「33」
「若いなぁ」
一回り以上年下の男に、まさかこんなに懐かれるとは……
まぁ、ユウキが激しく酔っ払っているからなんだろうけど。
リョウくんが「なみちゃんは俺の元カノなんだぞー、高校の時の」と嘘を話し始めて、私が「そうそう、リョウくんの奥さんと付き合う前が私」と乗っかったら「……そんな話は聞きたくない」と拗ねるユウキ。
嘘、嘘!ごめんごめん!とお酒しか頼まないユウキにラーメンをわけてあげた。
「今日仕事だったの?」
「うん、昼までだけど」
「呑み会まで何してたの」
「ご飯食ってー、バレンタインのお返し探しに行ってた、いいのなかったけど」
「へー、ちゃんとお返しするんだ」
「俺なんかにくれるんだからな、ちゃんとお返ししたいよ」
私はバレンタインに何かあげてもお返しなんかほとんどもらったことがない。
私の事をずっと大丈夫か?と心配してくれたりもするし……
「ユウキ、優しいね」
そう言うと、照れくさそうに俯いた。
「お前、言われ慣れてないからすげー照れてるな」
みんなにからかわれて、うるせー!と誤魔化すところも可愛い。
「ユウキ、女遊びはー?」とリョウくんが聞くと
「うーん、風俗はあんまり……キャバクラだなぁ」
「熟女キャバクラが好きなんだっけ?」
「若い女の子は話がつまんないから……女の子と話したくなったら熟女キャバクラ」
だから私に懐くのか……
とはいえ、私は熟女キャバクラでも雇ってもらえないくらい年増だし、ユウキが喜ぶような面白い話をした記憶もない。
やっぱり今日のユウキは酔いすぎて麻痺しているんだろうな……と考えていた。
ユウキが「帰る」と外に出たから、私も「帰るね」と一緒に外に出た。
「帰れるのかよ」と言われて「うん、大丈夫」と笑う。
「本当に?」
「うん、本当に」
多分、明日が土曜や日曜なら私はユウキに「帰りたくない」って言ってしまったと思う。
そう言ったら、ユウキはどうしたんだろう。
「俺、そこのタクシー乗るからな」って言うから「うん、気をつけて帰んなよー」って手を振った。
ユウキの連絡先は知らないし、SNSも繋がってないから、次に会うのはいつになるんだかさっぱりわからないけど。
次に会ったら、ユウキはこの事は覚えていないんだろうな。
もし覚えてたとしたら、次に会った時は手を繋ぐだけじゃ終わらない気がするから……
ユウキが全部忘れてくれてることを祈ろう。


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