friend's confession

男にも友達にも会わない休日、鬱陶しい旦那も息子二人も出払い一人のリビングで温かい紅茶を啜りながら電子版の漫画サイトを開くと、懐かしい題名と表紙があった。黄昏流星群を最初に読んだのは、確か25歳くらいの頃だろうか。女は肌がたるみ脂肪が乗り、男は勃起するのもやっとな四十を越えた男女が恋愛やセックスを繰り広げる黄昏流星群を読んでもその時はピンと来なかった。作品の中では四十など若い方で七十や時には八十を過ぎた男女が、年甲斐もなく誰かに本気の恋をし、激しくまぐわい、さめざめと泣く。あの頃は全く共感出来なかったし、まして自分なら実際にそんな歳になったら恋愛やセックスなど皆無だろうと思っていた。だが実際は…

漫画を読み進めていると、スマホに通知が入る。それも一分も間が空かずに二件。

【やすひろ】おはよう、今日まゆは休みかな、俺は仕事で福祉事務所に来てるよ

【ダイキ】おはよ！まだ寒いね、早くまゆを抱いてあったまりたい

四十に差し掛かる私は男二人と同時進行で付き合っている。25歳の私は…というより、ダイキと付き合うようになる直前まで、私は全く以て男にモテるような女ではなかった。若さがあるうちはそれなりに声もかけられたが、段々とワンオペ育児や家事に追われるうちに女である事自体も忘れそうになるくらい、身なりも老け魅力など何も無い中年女になった。ある日鏡を見て、自分はこのまま旦那とも夫婦生活を持たず、かといって他の男から相手をされる歳でもなく、ただ枯れて死んでいくだけなのかと絶望が過った。会う自信はない、ただ話すだけでいい。そう思いチャットサイトでダイキに会い、彼は私を見初めてくれて付き合いが始まった。

時期も丁度良かった、子供の手が離れたから仕事や女友達との遊びを再開した頃だったのでその中に男と会う時間を紛れ込ませる事が出来たし、構わなかった身なりを整え始めたのも同じ理由が成り立った。旦那に「なんだよ、髪染めたのか」と言われても「今までワンオペで二人も育てて来たの、髪なんか構えなかった。いい加減二人とも大きくなったからこれからは自分を構うよ」と言えば済んだ。私は元々が派手なタイプでもあった。それが子育ての中コンタクトが面倒になりメガネに、染めていた髪もほったらかしで家事中はバレッタでひっつめ、化粧もよほどの用が無い限りせず、爪など何年もマニキュアしないままとなった。

今はメガネはコンタクトに戻りボブの髪はアッシュに染め化粧もネイルも必ずするしピアスはホールを増やし、服は昔ダンスをやっていた影響もありややB系、10年前よりは少しはマシな身なりになり自信も戻った。旦那に片っ端から潰されてきた自信を取り戻させてくれたのは私を抱き、誉め、求めてくれたダイキだ。交際中は辟易する事の方が多かったがそれには感謝している。一番好きなのは康弘、是が非でも別れたくないと押し切られ付き合いを続行しているのはダイキ。そんな状態だが互いに互いの存在が全くバレないのは、それぞれと私が別のアプリやサイトを使って知り合っているから。住んでいる場所も全く違い接点も無い二人と、月一回ずつ会うのはそう苦労しない。これが同じ二人の男でも、同じ会社の同僚と上司などなら私の場合必ず露見し修羅場になるはず。

ダイキは愛してる、大好き、結婚したいと連呼する癖に安物のプレゼントひとつ寄越さずセックスしかしない男。やすは好意は口にしないがプレゼントはくれるしセックス以外に一緒にも出掛けたがる男。どちらにも足りないものがありどちらにもあるものがあるが、共通するのはどちらもかなり絶倫だと言う事。

その日は会いたがるダイキと駅でいつものように待ち合わせし、ホテルへ行く。都内のあまり治安の良くない区の駅、改札を抜けるとラーメン屋から漂う豚骨を煮出す匂いがし、パチンコ屋の新台を宣伝する旗や飲み屋のネオン看板が並ぶ通りに出る。汚く、ある意味東京らしい景色の大通りから路地に入ると数件のホテル。似たり寄ったりの古さのそのホテルのいずれかにいつも入り、私とダイキは逢瀬の時間を過ごす。

部屋に入るなりベッドに押し倒され服を脱がされたが、そのうちダイキが指を挿入しながら片手にiPhoneを持ったので慌てて上半身を起こした。「承諾も無しに撮らないでよ！」と言ったがダイキは「接写ならいいだろ？」と言い録画ボタンを押す。そしてそのまま挿入したが…数十秒で「あ、だめだ、凄い気持ちいい、イク」と言い射精。普段はそこそこ持つのは会う前日に抜いているらしく、忙しくてそれをする暇が無かったから早かったそうで。この際早さはどうでもいいから撮っていた映像を確認させて欲しい。見せてと頼むと再生してくれたが、一点モノのブレスレットや顔、ほくろなどは写っておらず本当に接写の結合部しか写っていないし抑えたので私の声も入っていない。これならダイキが万一スマホを紛失しても個人特定は出来ない。それでも「撮るのはこれきりにして」と念を押した。ダイキは逆に嬉しそうに「分かった、でも興奮しない？精液流れ出てくるとこ鮮明に撮れてる」などと返す。「会えない時はこれ見て抜くんだ」とも。

ダイキは会えない期間が続くと、電話で通話中普通の会話をしている最中も触り始めて勝手に射精する。「まゆの声も可愛くて好きだから、聞いてると我慢出来なくなるんだ」と言うが、正直言って男の喘ぎ声を聞くのも行為自体されるのも気持ち悪い。そしてこれからはアダルトDVDじゃなく私との行為の映像でも抜くそう。夫婦間でセックスが無いダイキの射精は、全て私が司っているようなもの。会うのを拒んでいた半年間も私がインスタにあげた半分スタンプで隠した顔を見ながらしていたそう。好きならここまで性的に依存されていたら嬉しいだろうけど、さして好きでもなくなった今は重荷でしかない。すぐ射精した一回目の後、ダイキはいつものように寝始めた。逆に私は男と会っている最中に寝た事が一度も無い、それは私はセックス後眠くならないタチだからというのもあるが、寝顔を撮られたくないからでもある。脅しやリベンジポルノに使われたくないから寝ない私がソファーで一服している間、ダイキは無防備に寝息を立てる。指でシャッター音の出る部分を押さえスマホを向けると、いとも簡単に一枚撮れた。「簡単に撮らせるなんてバカね」と小さく笑ったが、私とて康弘と出掛けた際には景色の写真は撮っても相手の姿は写さない。私もどこでスマホを紛失するか分からない中、拾われてセキュリティロックを解除でもされ見られたら、男の写真が私のスマホに入っていれば不貞している証拠になりえる。ダイキの寝姿もすぐに消去し、しばらくして目が覚めたダイキに「よく寝てた」と声を掛けた。ダイキにベッドに引きずり込まれ口で愛撫させられ、バックで一度目と変わらないくらい固くなったモノで今度はたっぷり時間を掛けて突かれた。

「帰り、カフェでも寄らない？」

やる事をやったらすぐ離れていたのに、最近は駅に戻る道すがらやたらと私を誘う。でも私はそもそも会いに来るのも、何を言っても離れようとしないダイキに辟易しながら来ているのだ。さっさと体を与えて満足させたら私も早く帰りたい。好きだった頃はもう少し一緒に居たいと思った事もあったが、今では帰りに化粧品買わなきゃだとか帰ったら本の続き読もう、という気持ちの方が大きくなる。にべもなく「今日はいいや」と断ると少し寂しそうではあったが、あちらも出すだけ出して満足している状態だからしつこくは誘わない。「次は行こう」と返すだけに留まりこちらもホッとする。

数日後、女友達とランチに行き話し込んでいる最中LINEが入り確認するとダイキから先日撮影した映像が送られて来ていた。半ば忘れていたしこちらは友達とランチ中、そもそも昼日中に何を送って来てるんだと慌てたが、対面に座る友達には平静を装い「ただの広告LINEだった」と言う。そのまま談笑を続けていると、ふいに友達が「私さ、この前浮気しちゃった。高校時代付き合ってた人に再会したのがきっかけで」と告白しだした。「一回だけだよ？」と照れる彼女は女らしさが増したようで、微笑ましくもある。「私も浮気してるよ、さっき来たLINEは男が撮ってたハメ撮り動画」なんて返したら彼女の方が仰天するはず。そんな想像ににやけてしまう口元を手で覆いながら「どんなシチュエーションで再会して、最後までしたの！？」と聞く。彼女は話したいのだ、久しぶりに自分が女になった経験を。だから私も良いリアクションで聞く。自分が散々している事は隠して、まるで自分も憧れるような素振りで。