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隔離
まゆ
公開日|2023.10.16
更新日|2023.10.20
交際する上で、私はLINE等メッセージアプリでの相手とのやりとりの相性が良いか否かも、長続きする上で大事だと感じる。時折居るのだが、どんな事をこちらが書き送ろうと「へーそうなんだぁ」「そうだねぇ」とかしか返さず会話のピンポンが出来ない男がいる、あれが私はとても苦手。何の話題を振ろうと膨らませる気の無い返ししかしないので、やりとりが鬱陶しいのかなと思いきや…「まゆと話してると楽しい」などと返り苦笑したりも。当たり前だろう、こちらは楽しませる為に考えた文言を送っているのだから。それを受けるだけで返さないからこちらは何も楽しくない。そうなると、自ずと交際自体も楽しくなくなり終わりも早かったり。
その点、やすは今までの誰よりもメッセージアプリでの会話が楽しい。彼は相手の気持ちを良く汲み取り、相手が欲しているであろうリアクションを必ずしてくれるから。決して気分を害するような物言いもしない。それが当たり前なのだが、ダイキとの交際中はやすと同じ三ヶ月目ですでに私に罵詈雑言を浴びせていた。やすとは当然喧嘩も一度として無く、私も彼の心情を理解した言葉を送るので、双方で時間の許す限り会えない日はメッセージアプリで寝るまで会話するのが常。
やっと私は、自分を大事にしてくれる人を得られた。だがその大好きな彼に会う事が大いに今、阻まれている。それは互いの子供が家庭に持ち込む感染症。私は息子達からコロナウイルスを貰い、私が治ったらやすは幼稚園児の息子さん二人からアデノウイルスを貰った。コロナ後遺症も含め私のせいで会えなかった期間は半月程度、それがやっと治り一度会って、涼しくなるこれからの季節は山へドライブに行こうと言い合っているうち、やすがアデノウイルスを発症。LINEには「アデノウイルスの感染を防ぐには10日間はキス出来ないんだ、まゆとあと10日会えない、泣きそう」と来た。その後も毎日のようにたくさんの会話の中に「あと○日で会える」「今、凄く会いたい」という言葉があり、こちらも恋しさが増した。
そんな中、ダイキの存在は私の中からすっかり無くなっていた。思い出す事すら無くなっていたが、凄まじい執着を見せていた彼を、私は甘く見ていた。電話番号の着信拒否もLINEのブロックもしたが二つあるSNSの一つはブロックし忘れており、唐突にDMが来た。そして最後に7月初めに会ったきり三ヶ月も期間が空き何度も別れを告げているのに、彼はまだ微塵も諦めていなかったと知る。
「今会いたくて仕方ない、ドライブだけでも一緒にしたいから明日の夜会わない?って誘おうと思ったの。でも会ったら多分キスしたくなる、だから我慢しなきゃ」私を喜ばせるそんなLINEがやすから届いた直後、SNSの通話機能がけたたましく鳴った。知らないアカウントから、誰かは予想が付く。そしてどんなに放置しても鳴り止まない。振動し続けるスマホをバッグに押し込み、家に居てリビングでテレビを見ている下の息子に「ちょっと買い物して来るわ」と告げ車に乗った。少し走り停められる場所でバッグからスマホを出すと、まだ鳴っている。出ると
「さっさと出ろよ!!」
という聞き覚えのある声の罵声が聞こえた。
「いい加減にしろ、戻れよ」
「戻らない、もうまっぴら」
「なら死んでやる」
「勝手にして」
「じゃあ死ぬよ、お前の個人情報全て書いて、この女のせいで俺は死んだって遺書残して。女房から裁判でも起こされろ、俺の親族からも恨まれろ、お前の家庭も壊してやるからな」
最低な脅しを聞く中、よくニュースで交際のもつれで起きた殺人事件が報道されているが、まさにこういう男が起こすのだろうとぼんやり考えていた。
ただそれは、男が反社会性人格障害…よく言われるサイコパスの場合。彼らは犯罪自体に罪悪感を持たないし自分の社会での地位も気にしない。対するダイキのような人間は、社会に溶け込むサイコパス。仕事を持ち家庭を持ち、それを壊す事なく生きるタイプ。だがどちらにも共通するのは、執念。そして相手を真心や優しさで自分に止めておく気は無く、洗脳でそれをしようとする。
ダイキは死ぬ気など毛頭無い。こちらも一年付き合って彼の性質も分かっている。彼は世界で一番可愛いのは自分、その可愛い自分が死ぬ事など実行するはずもなく、また自分の命令を聞かない私を心底憎悪している。本当にうんざりだ、もう終わらせたい。今となっては聞きたくもない声が喚くのを聞くだけ聞いたら「もう開放して」とだけ返す。
「お前が死ねと言うから死ぬ」
「死ねとか人に言える、お前の神経が分からない」
「死ねと言って、俺が死んだら満足か」
一見すると怒り狂って叫んでいるように見えるが、そうではない。彼は口調を荒らげる一方で、頭は非常に冷静だ。これらはサイコパス特有の獲物の心情を操作する、ただの“作業”だから。自分の暴言に責任は何ひとつ持たないが、相手の失言は何万回と繰り返し非難する。そのうち相手が疲れきり「私が悪かったです、どうしたら許して、その非難をやめてくれますか?」と言うまでやる。
サイコパス野郎が、永遠に吠えてろ。
そう思いながら「死ねとは言ってない。勝手にしてと言ったの。これ以上話しても仕方ない、仕事中だから戻らなきゃ、切るわ」と嘘をつき通話を終了した。
死ぬ気などあるはずがない、だがこのSNSまでブロックし私との繋がりがいよいよ無くなった時、私に何をして来るか分からない。私が話した何気ない情報を元に、ストリートビューで限りなく自宅近くまで調べてもいた。自分の地位や生活は守るが、私がどうなろうが構わないという気質だし、何よりここまでの狂気に近い執着が怖い。なので逆にSNSだけはこのままにしておく事に。繰り返し鳴るようならいよいよ警察に行く事も視野に入れねば。間髪置かずにまた通話して来るかと身構えていたが意外にも鳴らず、取り敢えずスマホを助手席に放り投げると少々荒い運転で自宅へ戻った。
最低な旦那、最低な不倫相手、合間に別の不倫相手、そして優しい不倫相手。入り乱れめちゃくちゃで大変だったりもするが、全ては私の責任のもと、私の意思で始めた事。こんなになってまで、楽しいとさえ感じている。だから微塵の後悔も無い。
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