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指輪
まゆ
公開日|2023.12.07
更新日|2023.12.07
付き合って三ヶ月、やすと会う頻度は大体10日に1回、月3回位とペースが決まってきた。互いがどんなに忙しくても、病気の時以外はそれ以上空かずにスケジュールを合わせて会っている。ダイキの時は月二回の頻度で会っていたが、月の初めに会えば月末まで会えなくても寂しいともあまり思わなかった。次に会うまでに必ず、あちらが頭のおかしい提案や暴言を吐き喧嘩になっていたのでそんな気もそもそも起きなかったが。やすと知り合ってからは、次に会えるまでの期間が例え5日程度と短めであれ凄く長く感じ、カレンダーを確認して「え、まだ前回会った日からこれしか経ってないの?」と驚く程。互いが互いを思いやれて喧嘩は全く無く見た目も好み、セックスの相性も最高な私達は、少なくとも私は上手くやれていると実感している。あちらも同じ気持ちであって欲しいが…
軽々しく愛してる、好きだと口に出す割に誠意は皆無だったダイキと違い、やすは好意はあまり口に出さない。たまにメッセージの文面に「そんなまゆに、俺は惚れてるんだよ」だとか「好き」と入るくらい。だがどこへ行こうと車内であろうと必ず手を繋ぎたがるし、セックスを求めないデートも提案してくれるし実行もしてくれる。言葉の愛情表現が少ない分それらがあるから、彼も少なからず私を良く思ってくれていると感じられている。
そんな彼がホテルからの帰り、車内で「クリスマスプレゼント、本当は自分で買って内緒にしておいて会った時に渡した方が良いんだろうけど、俺センス無いからさ。何が欲しいか聞いてもいい?」と言ってきた。何も贈られなくても充分幸せで何かねだる気も無かったので驚いたが、同時に嬉しくもなる。けれどいきなり聞かれても欲しいものがすぐ浮かばない。「何も要らないよ?こうして会ってくれる時間が一番の贈り物だから」そう返すと、彼は小さく笑った後「嬉しい、でもあげたいんだ。まゆ指輪好きだよね?何百万のを贈れる程給料なくて悪いけど、普段付けられるものを贈るのはどう?」と返った。
私はアクセサリーをよく身に付けるが、中でもピアスと指輪だけは毎日欠かさず付ける。そして彼は手を繋いでいる時、時折繋いだまま私の手を持ち上げて甲にキスする。その際に必ず違うデザインの指輪を付けているのを、見て把握してくれていたらしい。それだけでなく、彼は少し髪をカットした、カラーリングした、ピアスを替えた、ネイルの色を変えた、それらもいつも必ず見ており誉めてくれる。
私の小さい変化に気付き、好きなものを把握する。そんな事ダイキにも、まして旦那にもされなかった事。それだけで嬉しいのに指輪までプレゼントして貰えるのは嬉し過ぎる。ただ、高額なものは一切要らない。彼が私に贈ってくれた、その事実が大切なので価格は3000円のシルバーリングでさえ大喜び出来る。
「今から見に…行っても、郊外のショッピングモールとか駅ビルしか行けないか。日を改めて銀座とかのブランドショップに行く?」そう聞くやすに思わず「どれだけ高価なもの買う気なの?そんなお店に行く必要無いよ、一万くらいのシンプルリングが欲しいから近くの駅ナカのデパートで見たい」と驚いてこちらから提案した。「障害者施設の施設長なんて安月給だけどさ、さすがに一万よりは予算多くしていいよ(笑 って言っても、女房に内緒の金は大学時代にバイト代貯めてた通帳ん中のしか無いから、20万くらいしか予算無いんだけど。それくらいで申し訳ないけど、良ければ贈らせて」
そう言ってくれる彼の言葉が、私にとってはプレゼントを貰ったのも同じ事。嬉しくて少し泣きそうになった。駅のデパートの立体駐車場に車を停め、宝飾品店のある階を案内パネルで探す。「俺、女性のアクセサリー売ってる店全く詳しくない。店選び任せていい?」と言う彼にここなら手頃な値段で、かつ私の好みのデザインがあると思いagete(アガット)の店名を指差した。個性的なデザインが多く価格は高くても50万で安ければ9800円からある。ここなら彼に負担をかけず私の好みのリングが選べると思い、一緒に店舗まで行った。プレゼントとして男性から貰った経験は何度かあるが、一緒に買うものを選ぶ経験は初めて。とはいえアクセサリーに詳しくない彼は、私がケースの中を見つめるのを黙って横から眺めているばかりだが。連れてきてくれて贈り物をしてくれる、その心が嬉しい。宣言通り一万ちょっとのリングの中に良さげなものがあったので「これ可愛い」と言い指を指すと、彼が「どうしても気に入ったのなら買うけど、そうじゃないならもうちょっと予算あげてくれよ」と苦笑した。
言ってしまえば、本当に何だって構わない。彼がくれた物なら値段は関係無いのだ。が、あまりに安価に拘れば彼の顔を潰す事になるし、高過ぎてもこちらが恐縮する。互いの意見が落ち着くのは、価格帯が三万前後だと感じたのでそれを改めて伝えた。「さっきのは値段じゃなく、デザインが可愛かったから指したの。なら似たデザインのK10のこっちのリングにする」私が言うと「宝石付いてなくていいの?」と聞いてきたので「石の無いシンプルなリングが良い、毎日肌身離さず付けたいから」と答えた。プレゼント用のラッピングをされ袋に入れられた指輪を店員さんから渡された後は、改めて彼に「ありがとう」と言う。そして少し歩き出してから「ねえ!すっごい嬉しい!」とはしゃぐように言ってしまった。「もっと高くていいのに」と言う彼に「これが良かったの、だから幸せ」と返して微笑んだ。
冗談ではなく、私は彼と会ってからの日々は今まで生きてきた中で一番幸せだ。彼が居るから嫌な日常も頑張れるし、彼も多分同じだと思う。幸せの証が左ではなく、右の薬指に形になって来てくれた事が本当に嬉しい。
許されなかろうが、いい歳をして若い連中と同じような事して滑稽と言われようが構わない。事実幸せだから。
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