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まゆ
公開日|2024.06.23
更新日|2024.07.01
ダイキとは付き合って二ヶ月くらいから、私が嫌になり別れを切り出す→暴言を吐かれ喧嘩になる→私が折れて付き合いを続行する、というパターンが続き、まともに付き合えた期間は2年の中でトータル半年も無いように思う。そして全く好きじゃ無くなった今、時折復縁を迫るダイキからのDMは重荷を通り越して恐怖にさえなっている。もう幾度言われたか分からない復縁の要望に
「私は、たまにでいいから映画を一緒に見に行ったり記念日には花一輪でいいからくれたり、その程度の気遣いで構わないの。それすらせずに命令ばかり、拒否すれば暴言を吐くあなたに会いに行く義理は、もう無い」
そう送ったが
「じゃあ最後に一回やらせて、まゆが応じないから性欲たまっておかしくなりそう」
と返る。ならこれからはそうするよ、くらいの事さえも言えず彼の世界には彼しか居ない。他者に寄り添うという発想が完全に欠落しており、要望が通らないのは自分に非があるからではなく相手が悪いとしか考えない。これから反省し改善された所で私の方が好きじゃないどころか嫌いなので寄りは戻せないが、付き合うまで本性を徹底して隠していた所や他者の気持ちがどこまでも理解出来ない所などは実にサイコパスらしいと思わされる。
それでも嫌だと返すと、またいつものように暴言が怒涛のように来た。今回はいつにも増して凄い。
「お前みたいにブスで頭も悪い女いらねえよ。ただお前の○○○は最高に気持ち良かったから最後に一回オナホにしてやる、だから黙って言う事聞けブス、デブ」
文面を目でなぞり絶望的な気持ちになるのは、暴言の内容にではない。この暴言は私が応じない苛立ちから発しているのがよく分かるから。あちらが冷めたら暴言にはならない、狂ったように罵倒するのは手放したくないが手段が無い為に起きる激しい苛立ちから。まだ全く私を諦めるつもりが無いからと分かるだけに絶望感も凄い。本人も何を言っているか分からない程辻褄の合わない罵倒をしばし眺めていたが
「答えろよオナホ、黙って最後に一発やらせろ」
に対し
「自分が打った文面をよく読み返してね、誰がこんな言葉吐く男の言う事聞くの?なんで私は言う事聞く必要があるの?」
と返す。本人も狂っていて自分でも止められないのだろう、なので「嫌ならブロックしろブス、クズ女」という言葉に対し「もうそろそろその方がいいかもね、あなた本人も繋がっていたら錯乱して私に暴言を打つのが治まらないでしょう」と打ちLINEもインスタのDMもブロックした。でもそれでもまだ通話の着信拒否だけはせずにいる。本当に全ての連絡手段を断ったら何をして来るか分からないから。付き合い始めに迂闊に大まかに住んでいる街や家の外観を話題に出したら、ストリートビューを使い限りなく近くまで特定された。話す手段が全て無くなってある日玄関先に立たれたらと思うと身震いするので、まだ着信拒否はしない…というより出来ない。
カレンダーを見ると6月半ば、康弘との交際も気付けば8月で一年になる。別れ話をする度に罵声を浴び雁字搦めにされる強制的な交際のダイキと過ごした期間とは真逆で、やすとの交際は色んな場所に行って楽しく過ごし毎日のLINEのやりとりが楽しみで、たまに無神経な発言に失望させられ、それでも好きだから離れない。出会えて良かったと心から思えるあっという間の10か月だった。私を貶めるありとあらゆる忌まわしい言葉が並んだダイキのLINEを削除した直後、やすから来たメッセージは
「来月のまゆの誕生日はどう過ごそうか、行きたい場所はある?あとプレゼントも何が欲しいか教えて」
というものだった。彼は多分、私がねだれば遠くても無理して連れて行ってくれるはず。けれど仕事や家庭に磨耗する彼に私まで疲れを与えたくない。もう色んな場所に遊びに行ったししたい事もさせて貰えている。不満も希望も無いので「なら、ちょっと高めのホテルに長く籠りたい。で、やすにマッサージしてあげるから眠くなったら寝ちゃって」と返してみた。
「それじゃ俺へのプレゼントになっちゃうよ(笑 逆に俺がまゆにマッサージしてあげる。プレゼントはまだ決まってない?」
「なら、また指輪がいい。欲しいのがあって値段は5800円」
「一万以下なの?もっと高くても大丈夫だよ?」
「遠慮じゃないよ、インナーメッセージリングが欲しいの。指輪の裏に細工があって、付けてると内側の肌にハートマークとかの痕が付くやつ。欲しいデザインがその価格なんだ」
「そっか、まゆがそれが欲しいなら了解。ならプレゼントが安い代わりに良いメシでも行こうよ。でも当日に休めるのが一番なんだけど、仕事の都合で無理なら前後にずれるかも、それはごめん」
「全然いいよ、前倒しでも来月にずれても嬉しい」
「まゆはそういうとこ優しいよね、中には絶対当日に祝ってくれなきゃだめ!って言う女性もいるって聞くから。友達がそれで揉めてた。じゃあ決まり、休めそうな日調べてまた連絡するよ」
そうメッセージが来て了解と送り返した数分後、またLINEの着信が鳴った。
「24日なら休める。まゆも多分休みだよね?あ、あと再来月で俺達付き合って一年になる。色んな場所行ったなぁってこの前思った」
「24大丈夫だよ、それとそう、私もこの前思った。イルミネーションもバラ園も綺麗だったなぁとか思い出してたの」
「ずっと一緒に居てね、これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくね」
メッセージのやりとりを一段落させ、小さく笑う。私の誕生日の過ごし方が決まり交際自体も今の所順調、私は今幸せだ。容姿も声も性格も全てが好みでセックスも最高に感じさせてくれる男から自分も好きになって貰える事。簡単なようでなかなか無い事だし、それをこの歳で実現させて貰っている事が本当に有難い。彼の存在があるから仕事も家事も頑張れるし生きている事そのものが楽しい。スマホのカレンダー機能の24日をタップしたところで、またやすからメッセージが。「24まで待てないから、週明けにも会わない?」と入った。彼が望んでくれるなら私はいくらでも時間を作る、快諾した後仕事帰りにまっすぐ飛んで来てくれる彼に、次持参するお弁当には何を入れようか…と考えながらレシピを検索した。その時間すらも楽しい。
その日の夕方は、同じく人に言えない恋愛中の友人恵美と久しぶりに休みが合ったので夕食を共にした。付き合い初めの新鮮な二人は今が一番楽しい時期だろうと思いながら「で、どう?楽しい?」と聞くと、彼女の顔が曇った。「俺に謝る事あるよね?とLINEで聞かれたんだけど、心当たりが無いから分からないと答えたの。そしたらLINEを辿って読み返せ、と返って。遡って読んでみても怒らせるような事書いてないから本当に分からない、でも気分を悪くさせたならごめんなさい、と返したら無視でね。今は無視されて二日目」と話された。LINEのやりとりを見せて貰っても相手が怒るような物言いは見当たらない。けれど強いて言うならと思い「ここ、あちらから来た何してるの?に対して時間を空けて返信したから?だとしても次のレスには仕事でトラブルがあって退社が遅くなったよ、と理由が書かれてる。そもそもいつもすぐに返信出来るわけじゃないなんて、互いが社会人なら当たり前に理解して当然じゃない?」と指を指してみた。恵美は「ああ、これかあ…確かにこの日はへえ、って来たのに返信出来なくて、帰ってすぐ寝ちゃったんだ。これを怒ってたんだ」と小さく言った。
ダイキや旦那のように気に入らなければ相手を罵倒し倒す男も居れば、恵美の相手のようにネチネチ責める男も居て、色んな男が居ると思わされる。「私達の場合、互いの家が近いから会いやすい。代わりにすぐ会えるとあっちが思い込んでいた時に私の都合が付かないと、理由が何であれぐちぐち言われる。好きだけど近距離が仇になっているし、こういうやりとりは本当に疲れるんだ」そう吐露する恵美は付き合う前より元気が無い。そして「でもね、この手の愚痴は誰にでも言えるものじゃない。だからまゆが聞いてくれて本当に気持ちが楽になる、ありがとう」とも言われた。すぐ会える近さが羨ましかったが、あくまでそれは双方が互いに好きで思いやれる関係ならば。これがどちらか一方が上に立ち一方が下になる関係になっても、どちらか一方が好きじゃなくなっても、逆に近さが仇になる。「近場で付き合うのも良し悪しだよ」と恵美に言われたその時、私達が座っているすぐ前の空いた席に三人の男性客が案内されて来た。何気なく眺めていたが直後、見覚えのある人間を認識し私は即座に恵美に言った。「この席冷房の当たりがちょっと強いから、向こうの席に替えて貰っていい?」言われた恵美は快諾してくれたので店員さんを呼びかなり離れた席まで移動した。そこはトイレやドリンクバー、レジからも遠いので自分達の席の前を客が通過しない。
私達の席の目の前に座った男性客の一人は以前同じ会社で一度寝た男、トモアキだった。席の移動前、見間違いかもと思いメニューで顔を隠しながらしばし窺ったが顔だけでなく「タカシから、今仕事終わったからこれから来るってLINE来た」と喋る声まで一致したので間違いない。私から一方的に連絡を絶ちブロックしそれっきりになっていたが、まさかこんな場所で同じ時間に並びの席に案内されるとは。。。近場で付き合うのも良し悪しだよ、という恵美の言葉が身に染みる。と同時に
近くだろうが遠くだろうが今後やす以外の男とは生涯誰とも寝るまい、とも誓う。LINEさえブロックしてしまえば終わりなんて気楽に思っていたら大間違い、思ってもみない所でバッティングし冷や汗をかく事もあり得るのだと骨の髄まで分からされた。
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