縁切

狂ったように罵倒のLINEを送りつけてきたダイキの復縁要求を断り続けて一週間。最近ではすっかり大人しくなった。これでようやくダイキとは終われたのだと思う。もう何があっても答えない。ダイキは非常に分かりやすい、ようは今までも私次第だったのだ。私が情を捨てきれず戻るうちは離さないが、私が絶対戻らないと決めたらあちらもさっさと棄てる。私という存在が、自分にもう“利”をもたらさないと分かったから。そしてまた…良い付き合いが出来たら、と望んだあきさんとも、私は縁切りした。

男は性的欲求を満たしたくて浮気する、女は寂しいから浮気する。私達はまさにその典型、私はセックスがしたいから相手を求めていたわけではなく、寂しいから必要としてくれる人が欲しかった。家庭までは壊さない、でも「好き」と言い合える相手が欲しい。けれどあきさんはLINEの最中「好きな人に尽くす事は大好きだよ」などと書いただけでレスが止まる。自分でも言っていたが、彼が前に付き合った女は、付き合ったらワガママになり辟易したそう。私はその点ずっと、会う日も会う時間もしたい事も全てあきさんに合わせていて、ワガママは言わずに来た。それでも言葉の端につい出た「好きな人に」くらいの表現で警戒されるのが、逆にイラッともなる。私がまるで彼女にして貰うのを懇願しているような図式を勝手にあきさんが頭に描き、勝手に迷惑がっているような。

そうじゃない、でもどうせなら私も好意を遠回しに迷惑がるような男より、素直に好いてくれる人の方がいい。他にもセックスだけならいいが付き合うのは絶対嫌だと分かる表現が多々あり、その割には「まゆは俺だけのもの」「他に渡したくない」などとも言われ、あきさんへの苛立ちが募っていた。

「私は歴代の女みたいにワガママは言わない、でもずっと『付き合ったら豹変する』と警戒されていたのが気分が悪い」

と送信しブロックした。

不倫に限らず恋愛は、若い頃から下手だった。好きでもない人間から熱烈にアピールされるが、自分が好いた人からは好かれない、好かれても相手が豹変し振り回す。昔も今もこんなのばかり。これで全ての男と切れたし、続ける限り付きまとう慰謝料だ裁判だ、というリスクも無くなった。すっきりした気分でしばらくは女友達と遊んだり趣味に目を向けたりしていた。

そんな中でも、いまだに退会していないマッチングアプリのマイページには時折メッセージが来る。結局身辺が綺麗になって身軽にはなったのに、一抹の寂しさは拭えないままでアプリは退会していない。そして何の気なしに暇な時マイページの画像を変えたら、メッセージがひっきりなしに来るようになった。顔は手で半分隠して目元くらいしか出していないのに、効果は凄い。ただこんなに20人から一気にメッセージを貰ったところで全員と付き合いきれるわけもない。反響に驚きながらもメッセージをとりあえず眺める。

話は変わり、ダイキとの付き合いがきっかけになりマッチングアプリを使い何人かに会ったが、どの男も皆「私はピルを飲んでいるから避妊が要らない、中にも出せる」と言うと「いや、だとしても一応着けるよ」などと返した男はゼロ。全員喜んで生で挿入し中に射精した。私がもし嘘を付いていたらどうする気なのだろう。私自身はそんな事をする気は毛頭無いが、後からメルカリ辺りで買った陽性判定の出た検査薬など差し出され「避妊率は100％じゃない、妊娠したから中絶費を出して」なんて迫られたら…と考えたりもするが、殿方は皆そんな心配より目先の快楽を優先する。私は無論99％妊娠しないので男性陣にそれを許しているから良いのだが、一人として「念のために着けるよ」という男性が居ないのは少し可笑しい。

ついでに、マッチングアプリでは出会い云々じゃなくとも、メッセージのやりとりのみでも色んな男性を知る事が出来る。私の体感では変な男が7割、まともな男が3割。かなり変わった部類だと

23歳、セックスは大嫌いだけどキスはしたい男。→単純に面倒。

50歳、金が惜しいからホテルには行かず、野外で済ませたい男。→真夏も野外で済ませたいらしい。いつか職質されるし蚊だっているし…。

45歳、あなたの目は寂しそうな目をしていますね。寂しそうな目がたまらない、誰にも相手されていないのですね、僕が相手になります。と寂しそうな目と連呼し勝手に決めつける男。→あなたじゃなくてもいいです、という気に。

50歳、散々一方的にアプローチして来て、いきなり「直感しました、あなたと僕は合わない」などと言い出す男。→最初から精神的にちょっとあるようなプロフィールだったので、察した。

38歳、絶対に部屋は暗くしないと宣言し、こちらが要望すると「俺は明るい方がよく見えるから好き。君はアイマスクしなよ、視界暗くなるでしょ？」と頓珍漢な返答をする男。→お前がどうこうじゃない、相手の要望が聞けない、すり寄れない時点で問題外。

これらはまだほんの一部。ただ女性にも言えるが、変なやつの比率はそこそこの歳まで未婚で来た男が断トツ。全体的に一度結婚歴のあるバツイチの男の方がややマトモだが、その中にも「これじゃ離婚されるわ」と頷ける人間もチラホラ。それでもまだ以前に一度“誰かに選ばれた人間”だから信用はまだあったり。それから未婚男の中で特に印象深い男も。

会ったら「ガリガリに痩せている人かと思っていた、騙されたなぁ」と言い出した。私は初めから身長体重を明記しているのに。会って合わなかったらさっさと帰ろうと思っていたので「じゃあさよなら」と言うと手を掴まれ「いやいや、やりたいですよ。でも今後のあなたの決意が知りたい。俺に好かれる為に39kgくらいまで体重落とせますか？その決心を宣言してくれるなら付き合います。それとは別に今日はやります」などとほざく。笑って「あなたとやるなら、一人で楽しく買い物して帰った方がよほどマシ。なんでプロフィールすらよく読まずに詐欺扱いして来るあなたに、そこまで私が尽くさないとならないの？」と返した。「いやでも、俺の為なら」と謎理論を展開するそいつの腕を振り払い、一人でランチと買い物を楽しんだのも思い出。

そしてもう一つ、マッチングアプリでは美人局の被害が多いらしい。10人居たら3人くらいの割合で美人局の被害に遭っているし、セックスは嫌いだがキスはしたい、という前途の彼などは私が美人局の一味である事を異常なまでに恐れ「会いたい、でもそうじゃない(美人局ではない)証明が無いと会えない」などと喚いた。そんな証明どうすればいいのよ、とも思うし面倒だったので「なら会わないでいいよ」と返しブロックしたが、女が見ず知らずの男に会うのにリスクを抱えるのと同じく、男も少なからず女と会うのにリスクを抱えているのだと思わされた。

はっきり言ってしまえば、マトモな男など皆無とも言える。そもそもマトモな男はとっくに女に目を付けられ結婚しているし浮気したさにマッチングアプリに登録などしない。ただそれは私も同じ。同じ穴のムジナだ。それでも満たされない冷えきった夫婦生活に耐えるより、変なやつばかりでも中には居る比較的マトモな人と会ったりする毎日の方がやっぱりそれなりに楽しい。